新型コロナウイルスのワクチン接種開始への期待感や一部企業の業績が堅調なことが好感され、東京株式市場の日経平均株価がバブル経済期の1990年8月以来、30年半ぶりに3万円の大台を突破した。過熱する株価上昇には警戒感もあるが、それでも今年は、資産形成への一歩を踏み出す好機なのだという。米国民は現預金の割合が1割程度で、残りを株式や投資信託などの金融商品に投資しているとされる。一方で、多くを現預金に回している日本人。資産形成の差が老後の資金の差になっているともいわれるが、新型コロナ収束の見通しが立たない今、本当に資産形成をスタートさせる好機なのか。
今から資産形成「決して遅くはない」
「この1年で、『外食を減らせばその分お金が浮き、資産形成の原資が捻出しやすくなる』といったことを、実体験として学んだ人は少なくないでしょう。2021年は、こうした経験則も活かしながら、家計を『資産形成体質』に変えるチャンスの年かもしれません」
三井住友トラスト・資産のミライ研究所の青木美香主任研究員は、こう指摘する。コロナ禍で財布のひもは締まった。外出自粛が続き、外食費、交際費が減少した人も少なくないだろう。ミライ研によると、家計の収入は2017年半ば以降、一貫して前年同月を上回ってきた。さらに昨年5~7月には、国民一律に10万円を配った「特別定額給付金」の支給で、家計収入は10~15%の大幅増に。一方、消費支出は昨年3月から7カ月連続で前年同月を下回った。この結果、特に意識して貯蓄に励んだわけではないものの、家計貯蓄が増加するという「意図せざる貯蓄増加」が発生したという。
日経平均株価はコロナショックで急落し、昨年3月にはバブル崩壊後の歴史的な最安値を記録。ただ、米連邦準備制度理事会(FRB)の緊急利下げに続き、日本銀行も追加緩和を実施し、上場投資信託(ETF)の購入枠を年12兆円に倍増させたことで市場は徐々に沈静化した。11月に入ると、株価は急騰。米大統領選でバイデン前副大統領が勝利を確実にし、ワクチン開発も進展したことから、日経平均は2万7000円台まで回復した。
そして今月に入り、ついに3万円の大台に。市場はすでにバブルの色彩を強めているとされ、資産形成の機会を逸してしまったようにもみえる。だが、ミライ研の青木氏は「これから資産形成をスタートしても決して遅くはない」との考えを示す。近年、投資や資産形成への制度整備が進んでいることなどが理由だ。
制度面では2001年にDC(確定拠出年金)、2014年にNISA(少額投資非課税制度)、2018年にはNISAの長期積立枠「つみたてNISA」がスタートしている。2017年には個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」の加入対象が拡大されるなど、年々、制度が拡充した。また、多くの企業が投資単位を引き下げているほか、「ノーロード」(販売手数料無料)の投資信託も増加。投資信託の最低購入額もネット証券では100円から可能となり、確かに、手軽に少額から株式投資ができる環境が整いつつある。