ヘルスケア

その対策、意味ありますか? 専門家が提言する「真の感染防止」 (1/2ページ)

 新型コロナウイルスの感染者が国内で確認されてから1年以上。「常識」となっている感染防止対策の中にも無駄や不十分な点があることが、専門家の分析で分かってきた。感染制御学の第一人者である堀賢・順天堂大教授の協力を得て、従来の対策を徹底検証。長続きする「真に有効な感染防止対策」を探った。(荒船清太)

 ナプキン活用

 感染拡大の起点として名指しされている飲食店では、さまざまな対策が試みられているが、専門家の目からすると、感染症対策の解釈にずれがあるという。

 新型コロナは飛沫(ひまつ)とそれより小さいエアロゾル(浮遊微粒子)に混じって広がるため、その拡散を防ぐのが肝。マスクの着用は極めて大事で、飲食店であっても、いかに外す機会や会話を減らすかがカギとなる。

 「肝心なのは、食べるときは黙ること。黙食を実践しやすくする仕掛けが必要だ」と堀教授はいう。飲食直前までマスク着用を促すため、マスク入れの提供は「食事を出すまで待った方がいい」。出し入れしやすいトレー型などなら、こまめな脱着も促せる。

 追加注文など、会話がやむを得ないときは、マスクを着け直すか、ナプキンで口をぴったり押さえながら話すといい。口の間に隙間ができる扇子やマウスガードでは飛沫は防げてもエアロゾルの拡散は防げない。

 逆に、一人での黙食を徹底できるなら「営業時間は短縮しなくてもいい」(堀教授)。だが、そうした店に会食目的で連れ立って訪れる客をいかに防ぐかは、課題として残る。

 アクリル板を設置する際も、幅が狭ければ脇から飛沫が対面に通り抜けてしまうため、最低、机の幅いっぱいに立てる必要がある。せめて、腕を広げて肘から肘までの幅は確保したい。

 マスクを外さざるを得ないのは喫煙所も同じ。空気清浄機があればエアロゾルは吸着されるためさほど気にする必要はないが、飛沫は少々の風でも地表に落ちず飛ぶため、換気のいい屋外でもソーシャル・ディスタンスが求められる。

 職場での盲点

 オフィスにも盲点が潜む。使用前後に共有パソコンやキーボードを自分の手指とともに消毒するのはもちろんだが、見落としがちなのは固定電話だ。代表電話など共有電話機は短時間でさまざまな人が触るため、感染源になりやすい。

 本来は受話器を取る人が変わるごとに消毒が必要だが「いっそ共有電話を排し携帯電話やPHSなどの個別端末に切り替えるべきだ」と堀教授は提言。さらに個別端末から共有データを閲覧できるようにすれば共有パソコンも廃止でき、感染防止にも一役買える。

 通勤時にも注意が必要だ。公共交通機関では定期的な消毒が行われているが、つり革の消毒後にウイルスが付着し、それを触った手で目をこすり感染するなどのリスクは、どれほど消毒頻度を上げても残る。

 堀教授は「公共交通機関の消毒は1日1回程度でやむを得ない。つり革やエレベーターのボタンなど、共有部分を触ったら、客が手指消毒を徹底すべきだ」と、自衛を奨励する。

 無駄な対策も

 普及した感のある対策の中にも、無意味なものはあるという。

 たとえば、トイレにあるハンドドライヤーの使用禁止。そもそもハンドドライヤーは洗った後の手を乾かすもの。万一ウイルスが残存していてもごく少量で、トイレは一般に換気がよく、長居することも少ないためエアロゾルを吸い込んで感染する可能性は低い。ハンドドライヤーがクラスター(感染者集団)の原因になったという事例も報告されていないという。

 マスクを外したりコートを脱ぐ際なども神経質になる必要はない。医療現場ではマスクや防護服を脱ぐときは細心の注意を払うが、それはウイルスが大量に付着している可能性が高いため。今やほとんどの人がマスクをしており、一般の生活現場では「ウイルスがマスクやコートに大量に付着している可能性は低い」

 商店などの行列での人との間隔を取ることも、堀教授は「マスクを着用し、会話をしないのであればそこまで神経質になる必要はない」と指摘する。2メートルという数字は、マスクをしないときに飛沫が飛ぶ距離を基準としているからだ。

 ただ、店の入り口によく置いてある手指の消毒液は大事だ。部屋に入るとき、出るときの両方で無理なく消毒できるよう、ドアの付近で人の動線上に配置するのがポイントとなる。

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