東映のホラー映画「樹海村」が5日に公開された。「自殺を助長する恐れがある」として青木ケ原樹海での撮影を不許可とした後、方針転換してコラボ戦略を決めた山梨県は首都圏でシネアド(映画館CM)を上映。一方、ロケ地が転がり込んできた静岡県裾野市は「こちらが樹海の本家」とばかりにPRし、「聖地巡礼」の観光客に期待している。(渡辺浩)
「生きる喜び体感」
「樹海は素晴らしい生命の源。映画に抱き付いて、生命に対する思いを表現したい」と長崎幸太郎知事が表明していた山梨県。青木ケ原樹海のイメージアップを図るシネアドを作った。
樹海村にユーチューバーのアキナ役で出演している女優の大谷凜香(りんか)さんが樹海を歩き、「日本には、ぜったいに行かなければいけない場所がある」「生きる喜びを体感できるパワースポット青木ケ原樹海」の字幕が浮かび上がる。
「一度入ったら出られない」「怨念が集まっている」と樹海を描く映画の内容と正反対だ。東映は山梨県とのコラボを発表したプレスリリースで「本当の青木ケ原樹海はどっち?」と問い掛けた。
東映と調整の末
樹海村は「呪怨」などで知られる清水崇監督による「恐怖の村」シリーズの第2弾。樹海での自殺は描かれていないが、死体は数多く映され、英語のタイトルは「スーサイド・フォレスト・ビレッジ」(自殺の森の村)だ。
コラボの折衝にあたった山梨県のトンプソン智子参与は「県として映画の内容を肯定しているわけではないものの、表現の自由は当然尊重している」と強調。「東映と何度も調整し、両者が重なる部分を見いだすことができた」と話す。
今後は県独自の事業として、青木ケ原樹海でのネイチャーガイドツアーや写真コンテストを開き、自殺防止と観光振興をPRするという。
ゆるキャラが変身
山梨でのロケを断られた東映が向かった先は静岡だった。映画で映る富士山の空撮映像は宝永山が右側に見え、静岡側であることは一目瞭然。このドローン撮影は富士宮市で行われた。
青木ケ原樹海に代わる森として東映は、裾野市の十里木(じゅうりぎ)高原周辺を選んだ。物語の鍵を握る呪いの箱「コトリバコ」が見つかった家は十里木の別荘が使われ、病院のシーンは市福祉保健会館で撮影した。清水崇監督ら製作陣は1月15日に高村謙二市長を表敬訪問し、ロケへの協力に感謝した。
市はゆるキャラ「すそのん」を変身させた「樹海すそのん」の着ぐるみを作り、公開初日に東京・銀座で行われた舞台あいさつにちゃっかり登壇させた。ロケ地であることをアピールし、富士サファリパークなど市内の観光地への誘客につなげたい考えだ。
フィルムコミッションを担当する市戦略広報課の庄司元一係長は「山梨が断ったのを好機ととらえ、裾野ににぎわいを作りたい」と意気込んでいる。