ヘルスケア

国内初の院内感染から1年 「やりすぎが奏功」和歌山県知事が振り返る

 国内初の新型コロナウイルスの院内感染が和歌山県湯浅町の済生会有田病院で発生してから13日で1年を迎える。当時想定されていた感染力を上回る新型コロナの脅威にさらされるなか、県は国の対象を超える範囲で検査を実施するなど異例の対応で感染を封じ込め、「基本対策の徹底で院内感染は防げる」という教訓を得た。仁坂吉伸知事は「やり過ぎをあえてやったのがよかった」と振り返る。(前川康二)

 国内初の院内感染について、県のコロナ対策を統括する野尻孝子・県福祉保健部技監は「まさに衝撃的な始まり」と表現する。県の事後調査で判明した院内感染の広がりは以下の通りとなる。

 医師ら計11人

 昨年2月13日、この病院の50代の男性医師の感染が判明した。調査の結果、昨年1月28日に同病院1階の外来を受診した60代の男性患者を診察していたことが分かった。この医師からは同僚医師とその家族にも感染した。

 1月28日に受診した患者からは別ルートで感染が広がったとみられている。同じ日に受診した70代の男性も2月14日に感染が判明。その後の調査でトイレのドアノブなどを通じた感染の可能性が指摘された。この男性は肺炎の症状が悪化し、その後死亡したが、この男性と同じ病室の60代の男性患者も感染し、さらに1月28日に外来を受診した患者から家族や職場の同僚らにも感染が広がった。野尻技監は「医療従事者の手指を介して同室者に接触感染が起きたのでは」と推定。県では最終的に同病院関連で計11人が感染したとみている。

 国以上の対応

 病院内は「どこで、どれだけの感染者が出ているか全くつかめなかった」(野尻技監)という厳しい状況だった。

 新型コロナの強い感染力は当時の医療現場では分かっておらず、診察時のマスクとフェースシールド併用や共用部分のアルコール消毒などは徹底されていなかった。「コロナ対策としては不十分だった」と野尻技監は話す。

 しかし、感染を早期・完全に封じ込めるため、県の取った対応は素早かった。権限が直接及ばない社会福祉法人運営の有田病院に新規入院と外来診療休止を強く要請した。また、医師や患者のほか出入り業者、警備員にまで範囲を広げ、総勢474人にPCR検査を実施。さらに有田病院以外でも感染が疑われる肺炎患者も検査対象に加えた。

 国の当時の主な検査対象は新型コロナの発生地とされた中国・湖北省への渡航歴のある人などとされていたが、県の対応は国の対象を大きく超える異例の対応だった。

 同病院ではその後2週間以上感染者は確認されず、院内感染から約3週間後の3月4日に業務が再開された。

 仁坂知事は「当時は新型コロナの対応で分からない部分があった。やり過ぎをあえてやったのがよかった」と振り返る。「保健医療行政を担うわれわれが、地域の実情に応じて対応するのが大事。国に基準を決めてもらうのではなく知事が判断して必要な対策を取ることが必要だ」と強調する。

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