蚊の触覚にあり、人のにおいを感知する「嗅覚受容体」を組み込んで作ったセンサーで、人の呼気から、がんの進行度を示す微量のにおいを検出することに成功したと、東京大と神奈川県立産業技術総合研究所の研究チームが発表した。米科学誌に13日掲載された。将来的には、がんの進行度を示す数値「腫瘍マーカー」を呼気から検出することも可能になるといい、研究チームは民間企業と連携し、今後10年以内の実用化を目指している。
研究チームは平成28年、人の汗のにおいを感じる蚊の嗅覚受容体を用いて、においに反応して動くロボットを開発した。電気信号が流れる回路を作り、センサーにして反応させる仕組みだ。
今回、このセンサーの感度と精度を向上させた。受容体を人工細胞膜に組み込んだセンサーをつくり、水溶液に溶けたにおいの分子を感知させる際、においと受容体が高い確率で結合するようにした。
研究チームは、このセンサーで肝臓がんの進行度などを示す腫瘍マーカーと考えられている「オクテノール」を含むガスを測定。その結果、0・5ppb(ppbは10億あたりどれぐらいあるかを示す単位)の微量なにおいを検出することに成功した。
また、人工細胞膜の合成方法を変えたところ、1ppm(ppmは100万あたりどれぐらいあるかを示す単位)以下のオクテノールガスを10分以内に90%以上の確度で検出できるようになったという。
蚊の嗅覚受容体は約100種類あるといい、研究チームは、別の異なる昆虫の受容体を組み合わせるなどすれば、様々なにおいを検出できるセンサーを開発できるとみている。今後、民間企業などと連携する予定で、実用化に至れば、がんや糖尿病などの疾病の呼気検査のほか、麻薬・爆発物の検知、食品検査などに使える可能性もあるという。