終活の経済学

「おひとり様」時代の到来(2)樹木葬人気、初の一般墓越え

 おひとり様の増加は、「墓の選び方」に大きな変化をもたらしている。

 墓の情報サイト「いいお墓」を運営する「鎌倉新書」が実施した2019年の「お墓の消費者全国実態調査」で注目すべき数字がまとまった。同社のサイトを通じて墓を購入した人に、墓の形態を尋ねたところ、第1位が樹木葬(41.5%)となり、一般的な墓(27.4%)を大きく上回る結果となったのだ。樹木葬が一般墓を超えるのは10年に同社が全国調査を開始して以来初めて。前年(18年)の調査では、1位は一般墓(41.2%)で、樹木葬は2位(30.0%)だった。

 鎌倉新書の広報担当者は「樹木葬の多くが、跡継ぎが不要な墓として提供されている点が大きい」と指摘。「少子化や未婚率の増加で、お子さんがいらっしゃらない方や、子供に迷惑をかけたくないという方の受け皿になっている点がある」と話す。

 樹木葬のルーツは1999年に、岩手県一関市の知勝院にあるとされる。荒廃する里山の保全と、寺の維持を意識した提案だったが、おひとり様を含む墓の承継者を持たない人に支持を受けることになった。

 今では樹木葬は、各地の「里山」だけでなく、東京都心の寺の数十平方メートル程度の庭にも、ガーデニング形式の樹木葬区画ができる事態になっている。

 承継者がいなくても

 樹木葬に代表されるように、墓を引き継いで供養する人、つまり「承継者」がいなくても入れることができる墓地を「永代供養墓」という。この30年ほどの間に広がりをみせてきた。

 多くが、「永代供養料」と呼ばれる費用(布施として考えることもある)を寺など墓地の管理者に支払えば、管理者側で遺骨の供養や、空間の管理をしてくれる仕組みになっている。

 その形状や管理様式は実にさまざまだ。「樹木葬」の形だけをとってみても、一体(あるいは1家族)につき1本のシンボルツリーが立っているものもあれば、1本のツリーの周りに何体もの遺骨を納めるものもある。特定のシンボルツリーはなく、林のなかに遺骨を納めるものもある。

 トータルではお安く

 「樹木葬」以外にも、「納骨堂」タイプのものも多い。あるいは個別の「一般墓」のような形をしている永代供養墓だってたくさんある。

 共通しているのは、10年、20年、あるいは三十三回忌などの法要の区切りで、個別の空間は整理され、「合葬墓」と呼ばれる多くの遺骨が合同で納められる空間に入る点だ(少数派だが、永遠に個別空間が与えられて供養されるケースもある)。

 最初から、個別空間はなく合葬されるタイプを選択する人も少なくない。

 墓の形や、個別で維持される時間などによって、永代供養料の多寡が変わってくることになる。それでも、承継を前提とした一般的な墓地と比べると、トータルでみると費用が安く抑えることができるといわれることが多い。

 運営主体ごとの特徴で選ぶ さまざまな永代供養墓

 運営主体などに特徴を持つ永代供養墓をピックアップしてみた。

 寺院が運営・管理

 檀家(だんか)など寺との縁があるなら、ぜひその寺に「永代供養墓に入ることは可能か」と相談してみるといい。何らかのヒントを得られるはずだ。この20年ほどの間に各地の寺が、自分で運営する霊園の一画などに永代供養式の合葬墓をつくり始めている。おひとり様に象徴されるように一般墓の承継者不在問題が各地で深刻化しており、寺として対応せざるを得ないからだ。

 寺院が遺骨を預かり、永代にわたって供養と管理を行う永代供養墓。寺院によって、永代供養塔、永代供養廟、永遠墓などさまざまな名称がつけられている。承継者がいなくとも、寺が続く限り供養をしてもらえる。供養の方法は「彼岸・お盆に合同供養」「毎月・年に1回など定期的に供養」「祥月命日に供養」「回忌供養」など、寺院によって異なる。寺の墓地に、自分が受け継いできた墓があるのであれば、そこを「墓じまい」して、永代供養墓に入ることもできる。

 女性専用の墓

 女性の平均寿命の方が長い(男81.41歳、女87.45歳)ためか、おひとり様の6割は女性だ。そんな事情を反映して、女性だけを埋葬する永代供養墓もある。

 なかには、女性らしい白やピンクなど優しい色合いで、ガラスや大理石などを用いた繊細なデザインのモニュメントが特徴となっているものもある。おひとり様で身寄りのない女性はもちろん、結婚していても「夫と同じ墓には入りたくない」という女性や、姉妹・母娘・友達同士で入るケースもあるという。

 公営の承継不要の墓地

 「民営墓地」「寺院墓地」だけでなく、県や市区町村といった地方公共団体が運営する承継不要の墓地も増えつつある。

 「思い出の里市営霊園」をはじめ市内5カ所の霊園を管理・運営するさいたま市では、2019年度に「共同埋蔵方式」の「樹林型合葬式墓地」を完成させ、大幅に遺骨の埋蔵数を向上させた。

 東京都立霊園(8カ所)では「樹林・樹木型合葬埋蔵施設」の整備が進み、樹林墓地は12年から、樹木墓地は14年から募集開始し人気を集めている。いずれも遺骨は個別に布製の納骨袋に移され、樹林墓地は共同に、樹木墓地は3本のシンボルツリーの下の墓域に個別埋蔵される。

 老人ホームなどの共同墓

 いまや老人ホームは晩年を過ごすだけではなく、死後のケアもしてくれる存在となりつつある。有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅のなかには、入居者のために共同墓を用意しているところも現れ始めている。

 高齢となったり、介護が必要な状態になったりしてから、自分の墓地を探すのは大変なこと。手厚いケアが受けられる施設に入居でき、自分の死去後も遺骨をいつまでも供養してもらえるというのは大きな安心だろう。長い間、ともに暮らしてきた者同士、一緒のお墓に眠ることができる。高齢者施設にとって、入居者の「死」を、ほかの入居者に意識させるのはタブーと考えがち。しかし最近では、入居者の「死」を隠すことなく、施設で葬儀やお別れの会をするところも増えている。

 生協が整備した共同墓地

 合計すると全国で約3000万人の組合員がいるのが生活協同組合。各地の組合のなかには加入者を対象に共同墓地を建立するところも現れ始めた。既存の霊園の一画に共同墓地を建立するケースもあれば、自前で土地を取得して墓地を整備・運営するケースもある。(『終活読本ソナエ』2020年秋号から順次掲載)

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