結婚しない男女が増えている。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所がまとめた2015年時点の50歳時の未婚率(生涯未婚率)は男性23.4%、女性14.1%だった。30年前の1985年時点の調査では未婚率は男女とも5%以下だった。なぜ結婚したくない人たちがこんなに急増したのか。「結婚はしたいが、縁がなくて」の話はよく聞く。が、今回の話はまったく別で、もともと「結婚はしたくない」と思っている男女のことなのだ。(平松庚三)
なぜ彼らは結婚を拒むのか。その大きな理由がこれだ。(1)自分のためだけに時間を使いたい(2)経済的なメリットがない(3)他人と生活するのが嫌だ(4)子供は欲しくない-などで、うなるしかない。
そもそも、結婚するかしないかは個人の自由である。だが結婚しなければ子供が生まれない。(生まれることもあるが)子供が生まれないと人口が増えないから国を形成できない。
これこそ天下の一大事と思うのだが、国家の一大事よりも個人の嗜好(しこう)や利益が優先されるのか。まあ、「国のために結婚するのではない」との意見もごもっともだが。
そもそも人はなぜ結婚するのか。人間以外の動物には結婚という習慣はない。動物には結婚がなくとも決まった時期に発情期があり、その期間に交接することにより子孫を残すことができる。人間には発情期はない、というよりも人間は年中発情期である。その証拠に人間の子供は季節に関係なくいつでも生まれる。
作家で尼僧の瀬戸内寂聴さんによれば、人間は孤独だから結婚するという。人は孤独で寂しいから愛する人を求め、常に愛する人と一緒にいたいと思う。「それが結婚」だそうだ。
一方、古代には結婚などという制度はなかった。男女はそれぞれ自由に「交際」していた。だが、女性には出産育児に加え、自分と子供の食糧を確保するという責務があり強い男のそばにいて安全と安定を担保する必要があった。
結果として強い男が複数の女、つまり複数の家族を従えた。この風潮はその後中世から近代に至るまで形を変えながらも続き、結婚は経済的・社会的理由によるものが主流となり、やがてそれは家父長制度となる。
つまり結婚は個人の意思とは別ものであり、特に女性の意思は長い間尊重されてこなかった。結婚は当人同士が決めるもので、夫婦は平等であると憲法で定められたのは1945年、今からわずか75年前のことだ。それまでは寂聴さんの言う寂しいから愛する人を求めて結婚できた人は極めてまれであったろう。
また前述の社会保障・人口問題研究所によれば、若い頃、つまり18~34歳の時点では90%近い男女が「いずれ結婚したい」と考えていたという。しかし適齢期になるにつれ、結婚や住宅資金など現実の問題が障害となってくる。先述の「経済的メリットはない」は「経済的な余裕がない」との解釈もできる。
近年の非正規従業員の増加により多くの若者が経済的不安を持っている証だ。未婚率の上昇は現代の社会問題でもある。結婚しない男女の数は今後も増え続けるだろう。少子化はますます進み、高齢者は増え、人口は減少する。年金や医療などの社会保障が維持できなくなる。
今後は国と社会がより一層真剣に婚活、妊活、出産、育児、子育て支援に取り組まないと、大げさではなく、日本は破綻に向かうだろう。
【プロフィル】平松庚三 ひらまつ・こうぞう 実業家。アメリカン大学卒。ソニーを経て、アメリカン・エキスプレス副社長、AOLジャパン社長、弥生社長、ライブドア社長などを歴任。2008年から小僧com社長。他にも各種企業の社外取締役など。北海道出身。