宇宙開発のボラティリティ

熾烈化するサンプルリターン競争 宇宙は「観測」から「直接分析」の時代へ (2/3ページ)

鈴木喜生
鈴木喜生

 「ヒトは火星に滞在できるか?」を知るために

 NASAが公表した「アルテミス」計画では、2033年までにヒトを火星に立たせようとしていますが、それに先行して火星探査ローバー「パーセヴェランス」が7月30日に打ち上げられており、火星地表でサンプルを採取する予定です。いまNASAがそのサンプルを必要としているのは、火星環境の人体に対する影響や、火星で調達できる資源などを調べるためでもあります。

 パーセヴェランスはサンプルを試験管に入れ、そのまま地面に放置します。それを2026年に打ち上げが予定されているESA(欧州宇宙機関)のローバーが回収し、同じく2026年打ち上げ予定のNASAの探査機が受け取り、カプセルを火星周回軌道上へ打ち上げます。軌道上にはESAの探査機が待ち受けていて、そのサンプルをキャッチし、地球へ持ち帰るという計画です(関連記事)

 小惑星のリュウグウやベンヌの場合は質量が軽いので、その重力圏から離脱することは比較的容易ですが、火星からサンプルを持ち帰るにはカプセルを軌道上へ打ち上げる必要があり、こうした連携プレーとなるわけです。

 ▼JAXAも狙う「火星圏」のサンプルリターン

 パーセヴェランスと並行して、JAXAも火星圏からのサンプルリターンを計画しています。2024年に打ち上げを予定している「MMX」は、火星の衛星であるフォボス、またはダイモスに接地して、その試料を採取しようとしています。もしこれが計画どおりに進めば、NASAとESAが計画している2031年のサンプルリターンよりも早く、2029年には史上はじめて火星圏のサンプルが手に入ることになります。

 「月からのお土産」を巡る争奪戦

 中国は2019年1月、史上はじめて月の裏側に探査機「嫦娥(じょうが)4号」を着陸させることに成功しました。それに続く「嫦娥5号」の打ち上げが2020年度中に予定されていますが、そのミッションが「月」からのサンプルリターンです。 

 史上はじめてのサンプルリターンは、月面に降り立ったアポロ11号によって1969年に成し遂げられましたが、そのときのお土産の総重量は約22kgであり、アポロ17号に至っては約111kgの試料を持ち帰っています。米ワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館にはこうした「月の石」が展示されていて、実際に触ることもできます。

 また、アポロ11号の4カ月後には、アポロ12号が月面へ降り立ちましたが、それはアメリカの無人探査機「サーベイヤー3号」(1967年打上)の着陸地点のすぐ近くでした。そのためアポロ12号の船長ピート・コンラッドは、サーベイヤー3号まで歩いていき、そこに搭載されたカメラなどを回収し、地球へ持ち帰っています。今後、有人による月探査が活発になれば、こうした機材のリターンもさかんに行われるはずです。

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