例年とは異なり、新型コロナウイルスの感染対策と、熱中症対策の両立が求められる今夏。新型コロナの症状を熱中症と混同して見逃し、クラスター(感染者集団)が発生する事例が、とくにスポーツ現場で相次いでいる。専門家は症状だけで区別するのは困難としており、両方の可能性を念頭に、感染対策をしながら患者に熱中症の応急手当てを施し、改善しない場合は医療機関を受診する「2段構え」の対策が重要だと指摘する。
《臨床症状のみから熱中症とCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)を鑑別することは困難》
日本救急医学会などが7月にまとめた「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き」は、こう結論づける。
発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠(けんたい)感、意識障害、吐き気に胃腸障害。手引きによると、どれも熱中症とコロナに共通する症状だ。コロナに特徴的な呼吸困難なども、重い熱中症では生じることもあるという。
味覚、嗅覚障害は熱中症にはみられず、コロナを疑う材料にはなるが、感染者の半数にはこうした症状がない。
コロナ感染と熱中症の混同は、スポーツの現場で顕著だ。サッカーJ1のサガン鳥栖では金明輝(キム・ミョンヒ)監督や選手ら12人がコロナに感染。Jリーグで初めてクラスターが発生した。試合中止を余儀なくされた。
金監督は今月8日に違和感を覚えながらも試合を指揮。9日夜に発熱したが、翌朝には下がったとして練習に参加。倦怠感があったが、医療スタッフは熱中症を念頭に点滴を助言。その後、PCR検査を受けてようやく感染が判明。この間に、選手らに感染が広がった可能性がある。
松江市の私立立正大淞南高のサッカー部も熱中症と誤判断して感染が拡大。男子部員は5日夜に発熱したが、平熱に戻った6日には登校。味覚障害が出て初めてコロナを疑い、8日のPCR検査で初めて感染が発覚した。同校では生徒や教員97人が感染した。
実際に熱中症やコロナが疑われる症状が出た場合はどうすべきか。
東京医療保健大大学院の谷口英喜客員教授は「素人では判断せず、新型コロナウイルスに感染している可能性がある前提で、熱中症の処置もする必要がある」と指摘する。炎天下で激しい運動をした直後など、明らかに熱中症が疑われる場合を除き、決めつけないことが大事という。
手当てする側にもマスクなどの感染対策が欠かせない。その上で、(1)涼しい場所に患者を運ぶ(2)熱中症で不足しがちな成分を補給できる経口補水液を1リットル飲ませる(3)2~3時間休ませる-という熱中症を念頭に置いた対策を実施。それでも改善しなければ、重度の熱中症か新型コロナウイルス感染症を疑って、医療機関を受診するという対応を提言している。
谷口教授によると、医療機関では熱中症疑いの救急搬送者でもコロナ感染を疑い、防護服を着用して診察する。コロナ感染の判断材料となる胸部CT検査も実施しており、負担が増すとという。谷口教授は「搬送者が増えると、医療提供体制が逼迫する。搬送前のなるべく早い段階で対処することが大事だが、それ以上に、症状が出る前に、とにかく予防に努めてほしい」としている。(荒船清太)