火星に「そっと着陸」がいかに難しいか
NASA(米航空宇宙局)の火星探査ローバー「パーセヴェランス(Perseverance)」の打ち上げが7月30日に成功し、火星へ向かう軌道に投入されました。5億kmという距離を約7カ月かけて航行し、2021年2月18日には火星への着陸が予定されています。
パーセヴェランスは火星への航行中、「エアロシェル」というカプセルに包まれています。それはドラ焼きのような状態であり、あんこがパーセヴェランス、生地がカプセルです。そのカプセルはさらに、スラスター(補助推進装置)とソーラー・パネルを持つ「クルーズ・ステージ」というお皿に乗せられていて、その状態で火星に向けて飛んでいます。
火星の重力は地球の約38%なので、1025kgのパーセヴェランスは火星では390kg程度になりますが、それでも大型バイクくらいの重さがあります。それだけ重い精密機器を火星地表にそっと着陸させるのが、エンジンを8基搭載した「スカイ・クレーン」です。スカイ・クレーンは、エアロシェルの中ではパーセヴェランスを抱きかかえていますが、火星に着陸する直前になるとケーブルでパーセヴェランスを吊り下げ、火星地表にやさしく降ろします。その着陸の行程を示したのが以下の図です。
【パーセヴェランス火星着陸のシークエンス】
【1】大気圏突入10分前にクルーズ・ステージを分離
【2】大気圏に突入
【3】大気圏突入から240秒後、高度9~13kmでパラシュート展開
【4】260秒後、高度7~11kmでエアロシェルの下側を分離
【5】350秒後、高度2.1kmあたりでエアロシェルの上側とパラシュートを分離。スカイ・クレーンが着陸用ロケットを噴射。
【6】秒速0.75mで降下しながら高度21.3mまで降下すると、スカイ・クレーンがホバリングしながら着陸地点を確認。ケーブルを繰り出してパーセヴェランスを7.6m下に吊り下げ、さらに降下して着陸。
※スカイ・クレーンはケーブルを切り離すと、パーセヴェランスから少し離れた場所に移動して落下。
この大気圏突入から着陸までに要する時間はわずか6分50秒。光や電波で30分かかる遠距離でのイベントですから、地球から着陸を制御しようとしても間に合いません。なので、探査機は自分たちの判断で着陸し、地球の管制はその結果を30分後に知ることになります。
こうした複雑な着陸シークエンスをわかりやすく説明しているのが下の動画です。これは2012年に火星に着陸した探査機「キュリオシティ(Curiosity)」のときのものですが、今回の着陸もほぼ同様です(着陸完了まで3分30秒)。
【探査ローバーの火星着陸シーン】
「生命の痕跡」探す 有人探査へ向けた調査も
宇宙探査機が何を調べているのかは理解しづらいものですが、火星探査に関して簡単にご説明すると、過去に火星に送り込まれた4機の探査ローバーは、「火星はかつて生命が存在できる環境だったか?」を解明するために送り込まれました。しかし今回のパーセヴェランスは「生命の痕跡」そのものを探します。着陸予定地は「ジェゼロ・クレーター」であり、かつて湖だったその場所に古代微生物の痕跡がないかを調査するのです。
パーセヴェランスはドリルで岩に穴を開け、サンプルを採取し、搭載するいくつかの検査機器のなかに取り込んで原子レベルの観察を行い、そのデータを地球へ送信します。