新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、東京五輪開催の鍵を握るのが高い効果を持つ治療薬とワクチンだ。各国で開発が急ピッチで進むが、効果の確認や安定供給などで課題を抱えており、開催に間に合うのか不透明な情勢だ。
米ギリアド・サイエンシズ社の「レムデシビル」は5月、米国で世界で初めて認可され、日本でも承認。抗炎症薬「デキサメタゾン」は今月、日本で2つ目の薬として認められた。
いずれも患者の死亡率を下げると報告されたが、レムデシビルは投与から14日目で7・6%、デキサメタゾンは28日後で21・6%の患者が死亡しており、特効薬とは言い難い。
富士フイルム富山化学の「アビガン」は国産品として期待が高いが、明確な効果は証明されていない。武田薬品工業が開発中の抗体製剤は根治療法に近い効果が見込まれているものの、効果や安全性を検証する治験はこれからだ。
一方、世界保健機関(WHO)によると、ワクチンは世界で24件の治験が進んでいる。英製薬大手アストラゼネカは治験の初期に良好な結果が得られたとして最終段階に進み、9月の実用化を目指すという。米中のバイオ企業も今月中に最終段階に入る計画だ。
ただ、ワクチンは厳格な安全性の確認が不可欠で、WHOは開発に最短でも1年から1年半かかるとの見解を示す。順調に進んでも来春以降になる計算で、五輪前の実用化に懐疑的な専門家も多い。日本はベンチャー企業のアンジェスが6月に初の治験を始めた。
開発企業の自国内だけでなく、各国に安定供給されるのかも大きな課題だ。出遅れた日本などは公平な分配を求めて国際交渉を進めているが、米政府は「最優先は米国民」との姿勢で、先行きは楽観できない。