冬眠のような状態に導くスイッチとなる脳神経をマウスで発見したと、筑波大と理化学研究所の研究チームが11日、英科学誌ネイチャーに発表した。人間を人工的に冬眠させる手法の開発に道を開く成果で、医療や宇宙旅行での利用に向けて20年以内に人工冬眠の実現を目指す。
冬眠は食糧が乏しい冬を耐え抜くため、生命維持に必要な体内の化学反応である代謝を抑え、省エネで生き延びる現象で、発生のメカニズムは不明だった。
研究チームは、マウスの脳の視床下部にあり、体温や代謝をつかさどる神経を薬物で刺激することで、本来は冬眠しないマウスを冬眠させることに成功した。体温は通常の37度程度から20度台前半に低下し、心拍数や酸素の消費量も大幅に減少。薬の効果がなくなると自然に目を覚まし、健康状態に問題はなかった。
冬眠しないラットでも成功したことから、人間も同様の手法で冬眠できる可能性があるとみている。
脳梗塞や心筋梗塞、重い肺炎は、血流が途絶えるなどして酸素が十分に供給されないと重症化を招く。現在は人工心肺などで供給を増やして治療しているが、救急搬送時などに患者を冬眠状態にすれば酸素が少なくて済むため、重症化を遅らせる効果が期待される。臓器を長期間保管できるようになる可能性もある。
また、将来の火星旅行などで道中に冬眠すれば、宇宙船に積み込む食料や酸素を節約できるという。
筑波大の桜井武教授(神経科学)は「臨床応用の可能性が高く、医療に役立つ成果」としており、今後はサルなどで実験を進める。