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『オルガ』ベルンハルト・シュリンク著 波乱の人生送るたくましさ シンガー・ソングライター、丸山圭子  (1/2ページ)

 □『オルガ』ベルンハルト・シュリンク著、松永美穂訳(新潮クレスト・ブックス・2000円+税)

 19世紀末から21世紀までを駆け抜ける長編小説。主人公オルガ・リンケは、幼くして両親を亡くし、ドイツ北東部の農村で祖母に育てられる。やがて、農園主の息子ヘルベルトと恋仲になるが、行く手には波乱が待ち受けていた。

 3部構成。第一部では三人称でオルガの人生がつづられ、第二部では語り手から見た彼女との逸話が並び、第三部では30通の手紙の中で、オルガ自身が語る。

 2度の世界大戦に翻弄されながら、女性蔑視の時代に、師範学校に通い、手に職を持ち、自立の道を歩んだオルガ。そんな彼女の胸には、若き日の恋の思い出があった。

 ヘルベルトは、外の世界を夢見て南西アフリカやシベリアにまで探検に出かけていく。オルガは自分を置いて出かける彼に腹を立てながらも、何かに駆り立てられた彼の“輝く瞳”に心躍らされ、ただ一心に帰りを待ち続ける。沈黙をわかちあえる、そばにいるだけで幸せを感じる…ささやかな彼女の夢は、彼が北極圏に旅立ったときから崩れ、やがて孤独な人生が始まる。

 ひたむきに一人の人を愛し続ける人生。その中でオルガは驚くほど勇気ある行動を起こし、自分のための人生を歩む。謎解きのような展開もあり、彼女の手紙から衝撃の事実が語られる。オルガの言葉は温かく哲学的で魅力に溢(あふ)れている。

 「性格が二人を合わせるわけじゃないのよ。愛が二人を合わせるの」

 「与えられたものを受け取らなければ、そこから最善のものを引き出すことはできないの」

 何も求めず、現実を受け止めて前へ進むたくましさは、読者に生きる力の尊さと感動を与えてくれる。

                   

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