終活の経済学

相続(下)「節税対策一辺倒」の落とし穴 (1/2ページ)

 目先の損得より「未来予想」を

 賢い相続をする秘訣(ひけつ)として、司法書士の野谷邦宏さんは遺族、相続人の「同じ目線」が大事だと強調する。「遺産はみんなの将来のためのもの」という気持ちを「全員で共有してほしい」と話す。「争族」を避けるだけでなく、こうした意識が遺産を有意義に生かすことにつながるからだ。

 最も陥りやすいのが、損得にこだわった「相続税対策の一辺倒」による落とし穴だという。相続税の納付額を計算したある一家で見てみよう。

 「二次相続」の罠

 この一家は、総額1億円相当の夫の遺産を、妻5000万円(1/2)、子供2人がそれぞれ2500万円(1/4)の配分で相続した。実際に納付する相続税は妻143万7500円、子供がそれぞれ71万8700円となった。

 子供たちが注目したのが妻は「配偶者の税額軽減」という制度だ。(1)1億6000万円(2)配偶者の法定相続分相当額-のどちらか多い方の金額まで相続税がかからない。

 「だったら全部母さんに相続してもらい、一家の納税をゼロにしようよ」「そうだね、介護の資金にもなるしさ」と子供たちは知恵を働かせたのだが…。

 パターン1

 【母親が配偶者控除をフル活用】→二次相続で納税額がアップ

 一家は母親が1億円の遺産をすべて相続した。だが、忘れてはならないのは、後に母親が死亡すると、子供たちへの「二次相続」が発生することだ。一家の母親は不幸にして、遺産を使わずに亡くなり、丸々1億円(自宅の価値が変わらない場合)の「二次相続」が生じた。

 これを相続する2人の子供の課税遺産総額は、基礎控除4200万円(3000万円+2人×600万円)を差し引いた5800万円。納税額を割り出すと1人385万円、2人で770万円となった。

 パターン2

 【一次相続は法定相続分で分割】→二次相続でなんと!

 一方、父親の遺産を法定相続分で分割して相続していれば、母親は配偶者控除で相続税ゼロ。子供2人の納付額は前述の通り各71万8700円、合計143万7400円となった。

 その後、母親の死亡による二次相続は5000万円相当。基礎控除4200万円を引いた課税遺産額は800万円に。子供2人の納付額は1人40万円、合わせて80万円となった。

 チャートの通り、パターン1のように1次相続で“節税”にこだわりすぎると、2人が納める相続税は、パターン2よりも計546万2600円も多くなってしまう。

 ただ、母親が長生きし、一次相続の1億円を6割使って亡くなれば、二次相続は4000万円。課税遺産額は基礎控除4200万円を引いたマイナス200万円。つまり、子供2人は非課税となる。

 全員で意識共有を

 野谷さんは「配偶者控除“一辺倒”という相談がよくあるが、総合的に検討してみて、見直しを提案することが多い」と話す。目先の損得に目を奪われず、冷静に「未来予想」する感覚が必要だ。

 その意味では、「有効活用の一辺倒」も要注意だ。自宅などの立地がよいからと、生前にローンを組み、ビルやアパートに建て替えて遺産を投資運用する方法だ。

 負債は相続税対策にもなるが、相続人全員で利益や幸せを分け合えるだろうか。相続人の中には、「大きな収益なんていらないけど、子供の学資などちょっとまとまった現金がほしい」という人、逆にビルなどの運営を任されて、負担を一身に背負う人などがいるかもしれない。

 「相続人全体の思いをよく考えるべきだ。ビルを相続した人が亡くなり、ローンも残っていれば、『誰が引き継ぐの?』ということになりかねない」と野谷さんも警鐘を鳴らす。

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