理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
核分光研究室 室長・上野秀樹
中性子過剰ジルコニウム同位体の励起状態での変形
原子核の性質や特徴は、その原子核を構成する陽子や中性子の数のわずかな違いで大きく変わることがある。原子核の形状は内部構造の変容を反映するため、原子核の性質の理解に欠かせない。陽子数よりも中性子数が多い原子核(中性子過剰核)の一つである、ジルコニウム(Zr)同位体の99Zr(陽子数40、中性子数59)の励起状態は、97Zr(中性子数57)の励起状態と同じく球形であると指摘する理論モデルもあるが、実際には分かっていなかった。
今回、理研仁科加速器科学研究センターの市川雄一専任研究員(研究当時)らを中心とする研究グループは、核スピンの向きが揃った99Zrの励起状態から放出されるガンマ線を測定し、その励起状態の核磁気モーメントを決定した。その結果、核磁気モーメントの値は、球形形状と仮定したときの値から大きくかけ離れていることが判明し、99Zrの励起状態は変形形状であることが分かった。これまで、Zr同位体においては、偶数質量数の98Zr(中性子数58)と100Zr(中性子数60)の間で起こる基底状態の突然の形状変化が注目されてきたが、今回、奇数質量数のZr同位体97Zrと99Zrの間でも、中性子数58を超えると励起状態の形状が突如変化することが分かった。
本研究成果は、中性子過剰核における原子核形状変化の解明に貢献するとともに、今後の原子核モデルの構築において重要な知見を提供する。
【プロフィル】上野秀樹
うえの・ひでき 1996年東京工業大学博士号(理学)取得。日本学術振興会特別研究員、大阪大学理学部文部教官助手、理化学研究所研究員、仁科加速器科学研究センター偏極RIピーム生成装置開発チームリーダーなどを経て、2013年より現職。
コメント=放射性同位核種の核スピン操作技術の開発とその応用に関心を持っています。
理化学研究所 脳神経科学研究センター
タンパク質構造疾患研究チーム チームリーダー・田中元雅
プリオン感染における「種の壁」を解明
プリオン病は、細菌やウイルスなどではなく、タンパク質凝集体が感染することで発症する。プリオン病にかかると、脳内にプリオンタンパク質の凝集体が沈着し、神経細胞が変性する。現在まで有効な治療法は見つかっていない。
ウシからヒトへのプリオン病の感染がまれなように、プリオンタンパク質のごく少数のアミノ酸配列の違いによって、異種間でのプリオン感染性は大きく減少する。この現象は「種の壁」として知られているが、その分子機序は分かっていなかった。
今回、理研を中心とする研究グループは、2つの遠縁種由来の酵母のSup35プリオンタンパク質(Sup35)を用いて、Sup35における短い天然変性領域(αヘリックスやβシートなどの二次構造をとらないアミノ酸領域)を調べた。その結果、可溶性Sup35の短い天然変性領域において、少数のアミノ酸残基を置換することにより、局所的に動きと構造が変化し、異種間プリオン感染が起こることを見いだした。さらに、この短い天然変性領域内では、メチレン基(=CH2)の有無というアミノ酸側鎖間のわずかな構造の違いでさえ、構造が大きく変化し、異種由来のプリオンタンパク質凝集体との凝集反応(感染効率)が制御されることを明らかにした。
本研究成果は、これまで不明な点が多かった、アルツハイマー病などの神経変性疾患の患者脳で生じる異なるタンパク質間での共凝集の理解に役立つと期待できる。
【プロフィル】田中元雅
たなか・もとまさ 京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。理化学研究所基礎科学特別研究員、科学技術振興機構さきがけ研究員、理化学研究所ユニットリーダーなどを経て2011年より現職。
コメント=構造生物学と神経科学を融合した研究によって精神・神経変性疾患の病態を解明したい。
理研に研究チームを作りませんか? 2020年度後期新規研究課題を募集中
企業が抱える研究開発課題に理研が共同で取り組む「産業界との融合的連携研究制度」の2020年10月以降の新規研究課題を募集している。企業と理研が一体のチームとなって研究開発に取り組むことで、理研の研究成果に基づく形式知(特許・論文)や暗黙知(ノウハウなど)を効率的に企業に移転し、研究成果の早期実用化、次世代の技術基盤の創造を目指す。
研究課題の募集は春と秋の年2回行い、個別相談は随時受け付けている。詳細は次の通り。
【募集要項・説明会申込方法等の詳細】
http://www.riken.jp/outreach/programs/entry/
【応募締め切り】2020年6月15日(月)
【問い合わせ・事前相談窓口】
理化学研究所 科技ハブ産連本部 バトンゾーン研究推進課(日比野・鈴木・大須賀)
TEL:048・462・5459 E-mail:yugorenkei@riken.jp