ばい菌をまき散らすから出社するなと言われた-。新型コロナウイルスに関して、職場での嫌がらせが頻発、労組には“コロナハラスメント”と被害を訴える声が相次ぐ。自粛生活によるストレスや不安で客から店への悪質な苦情も増加し、深刻化している。
「誘っちゃだめ」
奈良市の製造会社で働く契約社員の女性(73)は4月上旬、上司の大声に不快な思いをした。自分を食事に誘ってくれた同僚を制止したからだ。女性は感染が拡大していた大阪市から電車通勤していた。
「新型コロナのせいとしか思えない。大阪から通勤しているからだろう」と打ち明ける。
職場では大きなテーブルを囲んで和やかに食事するのが日常だったが、上司は別の同僚にも女性と離れるよう指示していた。結局、女性は職場での昼食をやめざるを得なくなり、「傷ついた」と話す。
こうした職場での問題は他でも起きている。
連合には「上司が部下に除菌スプレーをかけた」「新入社員は『若いから大丈夫』との理由で東京都内の職場に通常出勤を指示された」などの相談が寄せられた。連合の担当者は「過剰反応だけでなく、配慮を欠いた言動も一種のハラスメント。不安やストレスで人間関係が悪化し、パワハラなどが誘発されやすい」と指摘する。
消費者による悪質なクレーム「カスタマーハラスメント」も深刻だ。
全国スーパーマーケット協会の3月の調査には、マスクなどの欠品が続き、苦情対応に疲弊した店員から「人間扱いされていない」と悲痛な声が寄せられた。配送トラックの到着を目撃するたび電話で「早く商品を並べろ」と品出しを要求する客や、デマで混乱して苦情を言う客などさまざまだ。協会は「人手不足の店舗が多く、苦情に手を取られて品出しや会計が遅れ、悪循環だ」と訴える。
感染者を悪いとする風潮や、治療にあたる医療従事者への差別的扱いなど、いわれのない批判も起きている。
感染防止を主張されると反論しにくい面もあるが、ハラスメントのない職場づくりを推進する「21世紀職業財団」の藤野恵子担当部長は「通常のハラスメント同様、相談窓口に伝えてほしい。会社側はこれまでにない問題かもしれないが、内容を確認し、職場で適切な対応を取る必要がある」と助言する。
テレワークでメールやパソコン画面を介したやりとりが増えており、コミュニケーションにも注意を促す。「気持ちが伝わりにくいことを認識して、相手の気持ちに配慮するという基本を心掛けることが大切」と話している。