世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を表明したことで、感染予防対策が長期化する見通しになった。若者よりも重症化するリスクが高いとされるのが高齢者だ。日頃の生活の中で、高齢者はどのような点に注意すべきなのか。専門家に聞いた。(石川有紀)
注意すべきは人混み
3月上旬、早咲きのサクラが満開の大阪・長居公園では、マスクを着けて撮影を楽しむ高齢者の姿が目立った。「植物園も休館し、楽しみが減った。早く終息するといいけど」と語るのは、80代女性。撮影のために毎日1人で訪れるという70代男性は「人が多い街中には行かず、友達との集まりも少なくなった」とこぼした。
「健康な高齢者でも、人と接触する機会が増えるほど新型コロナウイルスの感染リスクは高まる」
りんくう総合医療センター(大阪府泉佐野市)の倭(やまと)正也・感染症センター長は危機感を示す。特に糖尿病などの持病がある高齢者は新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいとされており、「持病をコントロールできているか、生活を見直す機会にしてほしい」と強調する。
政府の専門家会議は、長期的な感染予防の必要性を訴えるほか、クラスター(感染者集団)が発生しないよう、(1)十分な換気を行う(2)人の密集を避ける(3)近距離での会話や発声を避けるか、飛沫(ひまつ)を散らさないようマスクを着ける-ことなどを呼び掛けている。
新型コロナの感染拡大で多くの地域活動などが中止され、高齢者の憩いの場も失われている。
倭氏は「心身の健康のため、屋外で人と密接な接触がない散歩や趣味の活動は問題ない」と理解を示す。一方で、乗客からの飛沫感染のほか、手すりやつり革からの接触感染リスクもあるとして、公共交通機関の利用は避けるよう呼びかける。
専門家会議も「感染リスクが低い」具体例として、人と接触が少ない買い物、相手に手が届かない程度の距離での会話などを提示している。
家でも運動
重症化リスクが高いとされる高齢者。ただ、長引く外出自粛により、心身の衰えも懸念される。
「外出控えが長期化すれば、筋力や免疫が弱るなど心身の機能を大きく損なう恐れがある」。東京大の飯島勝矢教授(総合老年学)はこう指摘し、高齢者の心身の虚弱化(フレイル)を簡易診断する「フレイルチェック」の活用を呼びかける。
フレイルチェックでは、両手の親指と人さし指でつくった輪を、ふくらはぎの一番太いところに当てて、隙間の有無を調べる「指輪っかテスト」で筋肉量を確認する。隙間があれば、筋肉減少の可能性があるという。
このほか、食事など日常生活に関する11項目の問診表で、身体と心などの衰えを総合的に判断する。ただ、これらの項目のうち、外出や人と食事をすることは、感染予防の点で難しい。そのため、「近所への散歩や買い物で日光を浴びるほか、家でラジオ体操をするなど、工夫をして運動を取り入れるといい」と飯島氏は助言する。
高齢者が外出を自粛すると、孤独化につながる懸念もある。飯島氏は電話での会話を勧めており、「不安の解消と口の筋トレにもなる」という。離れて暮らす高齢の両親や祖父母だけでなく、高齢の友人にも、積極的なかかわり合いを持つよう促している。
高齢者の虚弱化を防ぐため、日本老年医学会は、感染予防とともに、体を動かす、1日3食欠かさず食べるなど、日常生活での注意点を取りまとめ、ホームページで発表している。