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(172)医学論文、うのみにできない話

 インターネット上には正しい情報だけがあるとは限りません。誤った情報でも、誰かが一見正しそうな書き方をして、それを多くの人が信じて引用してしまうと、ネット上ではあたかも真実のように見えてしまいます。

 医学の情報でも、医師が書いていれば正しいかというと、必ずしもそうではありません。医学論文でさえうのみはできません。医師にもそれぞれの主義主張がありますし、知ってか知らずか、自分や他の誰かへの利益誘導に繋がるものもあります。

 私のクリニックに通院している60代後半の男性患者さんと、血圧の目標値の話をしていた時のことです。その患者さんが「血圧は本当は薬で下げなくてもいいと聞いたよ」と言いました。どうやら製薬会社が血圧の目標値を下げることに加担して、降圧薬をたくさん売ろうとしているという話などを見聞きしたようです。

 実はこの患者さんの話、まったくの見当外れでもありません。

 2月に、人工的な日焼けが体に及ぼす影響についての数々の医学論文を解析し、日焼け用機器メーカーなど企業との金銭的なつながりの有無で結論に偏りが出るかどうか調べた研究が、英国の医学雑誌に発表されました。

 解析した論文の7・2%は、日焼け用機器メーカーやビタミンD製剤に関連する製薬会社など、人工的な日焼けで利益を得られる可能性がある企業と金銭的なつながりのあるものでした。企業と無関係な論文では、屋内日焼けに批判的な結論が92%、好意的なものは4%だったのに対し、企業と金銭的につながりのある論文では批判的なものが12%だけで、好意的なものが78%にも上っていました(いずれも残りは中立的な結論)。

 高血圧についても、利益誘導型の論文も存在するようです。しかし、公平性を保った数々の総説などから、薬を使用してでも治療する価値があるということも示されており、今のところ大半の医師が賛同しています。患者さんも「おれは死にたくないから薬は飲むけど」と笑って帰っていきました。

(しもじま内科クリニック院長 下島和弥)

=次回は26日掲載予定

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