終活の経済学

死後の手続き(2)葬儀社の選び方

 ■初めての喪主を強力サポート

 葬儀の良しあしは、「葬儀社選びで決まる」と言っても過言ではない。「喪主になるのは初めてなので何も分からない」のは当然。それでも葬儀社さえ決めておけば、遺体の搬送、安置、通夜、葬儀・告別式の準備や進行など、葬儀全般を段取りよくサポートしてくれる。

 ◆地域に詳しい業者を

 ただし、葬儀社によって料金体系が異なるだけではなく、提案できる葬儀式場、サービスの内容も異なってくる。できれば事前に相談して比較検討しておきたい。葬儀社を検討するときは、地域の事情に精通しているところから数社ピックアップし、直接相談して見積もりをもらってみる。葬儀社の規模の大小はあまり関係ない。葬儀費用が明確であること、要望に応える姿勢があること、葬儀社保有の式場を使用する場合はその使い勝手などから検討する。

 近年注目されているのはインターネットで葬儀パッケージ商品の販売を全国展開している「ネット系葬祭業者」。これらのネット系葬祭業者は、葬儀をせずに火葬する「直葬」で10万円台からと格安をうたって集客し、実際の施行は提携している地域の葬儀社が担当する。

 ネット系葬祭業者の問題点は、格安をうたうあまり、見積もりと実際にかかった葬儀費用との間に乖離(かいり)が生じたり、コールセンターのスタッフの知識や経験値が低く、必要とされる情報が伝わらなかったりして、トラブルが生じやすい点だろう。あくまでも比較、検討する業者の一つとして捉えておいた方が無難だ。

 ◆増える「簡素に短く」

 近年は葬儀に対する考え方の変化や亡くなる方の高齢化により「葬儀は簡単に」とシンプルな葬儀を求める声が増えている。「お葬式に関する全国調査」(2017年、鎌倉新書)によると、家族を中心にごく親しい友人・知人が集う家族葬を希望する人は全体の37.9%で、前回の調査結果(15年)の31.3%から増加している。

 確かに、参列者が少なければ会場は小さくて済み、料理などのおもてなし費用も削減できる。世間体にとらわれず、故人とゆっくりお別れができるメリットもあり、「家族葬」という言葉はすっかり一般に定着するようになった。

 さらに簡素化したスタイルが「直葬」で、こちらは形式的な儀式を省き、遺体を安置した後、直接火葬場に移動し、荼毘(だび)に付すという方法だ。

 しかし、増加しているかというと、前回調査の5.9%から今回は4.9%。1ポイント減という結果だった。故人の遺志や家族の意向で「葬儀はシンプルにしたい」という人は増えているが、何かしらの形で故人を弔いたいと思っている人も多いのではないだろうか。

 近年は、儀式の短縮化も進んでいる。初七日法要が火葬後すぐに「還骨・初七日法要」として執り行われるようになって久しいが、葬儀・告別式の式中に行われるケースも増えている。さらに最近は「通夜、葬儀・告別式の2日間の参列は厳しい」という声を反映して、通夜を省く「一日葬」というスタイルを遺族側から提案されることもある。

 ◆相場は平均195万円

 葬儀費用を大きく分けると、「葬儀施行費用」「車両費用」「火葬費用」「斎場・式場使用料」「飲食接待費用」「宗教者への費用(お布施)」に分類できる。

 日本消費者協会では3~4年ごとに葬儀に関するアンケートを行っているが、2017年発表の調査結果によると、全国平均で合計金額は195万7000円。このうち「お布施」以外の部分が通常、葬儀社の見積書に記載されている項目になる。

 見積書には「葬儀一式〇〇円」と表示する「セット型」と、項目ごとに金額を表示する「アラカルト型」がある。セット型は不要なものが付いている場合や、含まれていない内容を希望して追加料金が発生してしまうとことがあり、注意が必要だ。アラカルト型は、項目が多すぎてかえって分かりにくい、というデメリットがある。

 大切なのは、全てを合算した総額と内容をしっかり理解しておくこと。当日、料理や返礼品などが増えるなど、想定される追加項目についても、どれくらい加算される可能性があるのか、葬儀社によく聞いて、把握しておくことが大切だ。

 ◆故人の口座から

 家族が亡くなると、葬儀費用など緊急にお金が必要になる。死亡によって金融機関の故人の口座が凍結される前に、慌てて引き出した経験を持つ人も多いだろう。

 こうした事情を考慮し、2019年7月から、相続人であれば、他の相続人の合意がなくても、凍結された口座から預金を引き出すことが可能になった。

 引き出せる金額は、預金額に「法定相続分」をかけた額の3分の1(上限150万円)まで。慌てずに故人の口座がある金融機関に相談しよう。

 ◆喪主がすべきこと

 通夜から葬儀終了まで、遺族は親戚や参列者の対応に追われることになる。手順や進行など細かい点は、葬儀社がその都度指示を出してくれるので、基本的には心配ない。しかし、意思疎通が十分でなかったり、確認事項が不足していたりするために起こるトラブルもあるから、不明な点はその都度、解決しておこう。

 通夜の前までに、故人を棺に納める。単に棺に納めることではなく、それを儀式として行うことを「納棺の儀」という。納棺の儀に必要な葬具や死に装束などは、葬儀社が準備してくれる。「仏衣ではなく、本人らしい服を着せたい」「愛用していた品を棺に納めたい」などの希望も、葬儀社に相談してみよう。納棺の儀のタイミングも、式場や参加者の状況など、ベストなタイミングを見計らって提案してくれる。

 通夜は本来、遺族が故人に夜通し付き添って見守るものとされていたが、現在は、告別式に参列できない人が通夜に訪れることが一般的になっている。地域にもよるが、参列者には「通夜ぶるまい」の席を用意する。喪主は開式前、会葬礼状の文面や名前の最終確認をしたり、供花の芳名札の並び順などを確認し、僧侶が到着したら、あいさつする。

 「葬儀・告別式」は、死者を送る宗教儀礼である「葬儀」と、友人・知人とのお別れの場である「告別式」がひとくくりになったもの。終了後は出棺し、遺族と親戚は火葬場へ向かう(先に火葬を済ませる骨葬の地域もある)。

 葬儀・告別式では通常、喪主または遺族代表のあいさつが入るので、あらかじめ、あいさつをする人を決めておく。一般的には喪主が行うが、人前で話すことができる状態でないとき、喪主が未成年といった場合などは、別の遺族が代わりにあいさつをすることもある。火葬後に「精進落とし」など会食を設ける場合は、その人数を正確に把握しておくことも喪主の仕事になる。(『終活読本ソナエ』2020年新春号から順次掲載)

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