夜のネオン街に軒を連ねる「スナック」。中高年の男性が集うイメージを持たれがちだが、最近では20~30代の若者や女性の客が増えている。料金を低価格に設定したり、客同士の交流を促したりする若者向けの店も増加。スナック好きの常連「スナッカー」や女性愛好家「スナ女」といった造語も登場するほどだ。昭和から平成、令和に時代が変わり、改めて見直される魅力とは。(吉国在)
大阪の繁華街・北新地にあるスナック「堂島ジゴロ」(大阪市北区)は、客の3分の1が20~30代。昨年末のある日の午後8時ごろも、かつてはやった歌謡曲が響く満席の店内は、ほぼ半数が若い世代だった。
「社会人として必要な礼儀はスナックで学んだ。世代も職業も違う人と打ち解けられる空間はほかにない」。友人と訪れた大阪市城東区の男性会社員(31)はグラスを傾けながら、魅力を語る。
スナックについて初めて記したとされる学術的研究書「日本の夜の公共圏」(白水社)によると、昭和39年の東京五輪に伴う風俗営業への取り締まり強化の対抗策として、規制対象の酒だけでなく軽食も提供する店が「スナックバー」と名乗り始めたのが起源。高度経済成長とともに二次会の場として定着し、バブル期には全国で20万軒以上に増加したが、全国カラオケ事業者協会の統計によると、最近は約15万軒にまで減った。
こうした中で近年目立って増えてきたのが、若者と女性客だ。スナック事情に詳しいライターのカワノアユミさんは「若い女性がスナックで働くようになって、若いママが増えたので、若者や女子がカラオケやデートに利用しやすくなった」と説明する。
同協会は初心者を呼び込もうと、2年前に検索サイト「スナックdeカラオケnavi」を立ち上げ、全国のスナック約2万軒を掲載。初来店に限り3千円で飲み放題になる仕組みで、衛星利用測位システム(GPS)をもとに近隣のスナックを表示する。直近のアクセス数のうち34歳以下は36.8%を占め、女性も31.8%に上る。
また、出版社「ぴあ」が大阪・キタのスナック店を紹介するガイド本を刊行したほか、「ブルータス」(マガジンハウス)などの情報誌も特集。つきだしの駄菓子を食べ放題にしたり、女性客の料金を男性より安くしたりと、工夫をこらす店が増え始めた。週1度はスナックに通う大阪府八尾市の会社員、前川真里さん(38)は「ママに相談したり、人前で歌ったりと、ストレス発散にはスナックが一番」と語る。
「日本の夜の公共圏」の著者で、首都大学東京の谷口功一教授は「スナックでの客同士の関係はしがらみが少なく、会員制交流サイト(SNS)上のつながりにも通じる。半面、より現実的なコミュニケーションが可能な夜の社交場として、従来と異なる客層の支持が広がっている」との見方を示す。