学校で子どもにお金について考えさせることは、悪いことなのか。東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・沼田晶弘氏は「アクションワールド」という教室内通貨をつくり、実際にクラスでお金を知る疑似体験を行った。そこで子どもたちは何を学んだのか--。※本稿は、沼田晶弘『世界標準のアクティブ・ラーニングでわかった ぬまっち流 自分で伸びる小学生の育て方』(KADOKAWA)を再編集したものです。
なぜ大人はお金を教えることを嫌がるのか
以前、あるインタビューで、「生徒たちにはどんな子どもに育ってほしいですか」と聞かれたとき、ボクはこう答えました。「もし、日本の法律が急に変わって12歳から社会人になって働けと言われても、うちのクラスの子たちなら、すぐに企業の即戦力として働ける」と。
ボクは、子どもたちとニュースの話をしながら社会のしくみについて説明しているし、授業で会社の経営のことなどにも触れています。それに、大人の人が「子どもにしてほしくない話」の第1位に挙げるであろう「お金の話」も。
うちのクラス出身者は、そこらの小学生に学力で負けても(負けないとは思いますが)、生きる力では負けない。ほかのどんな小学生よりも実社会に触れていると自信を持って言いきることができます。
学校で子どもたちにお金について教えていると言うと、なんで嫌がる人が多いのでしょうか。現代社会にとって、お金はなくてはならない価値基準の一つだし、実際、誰もが仕事でお金を稼ぎ、その稼いだお金を使って生活しているのに、子どもには教えたくない。それって変だと思いませんか?
クラスで行ったお金を知る疑似体験
何年か前、うちのクラスで「アクションワールド」という教室内通貨をつくって、お金について学んだことがあります。ちゃんと紙幣をつくって、偽造されないように「アクション銀行」というハンコを押して。
まず、スタートとして子どもたちにいくらか渡し、「アクションワールド」のルールを決めました。例えば、給食当番をやると給料がいくらもらえるとか、2週間に1回「アクション国」の総理大臣選挙を行うとか。徐々にルールが増えていくのですが、その一覧をわかりやすいように壁に貼り、決められたルールの中で、子どもたちが自由に「アクションワールド」を使うのです。
最初は、誰もが簡単にお金を稼げる給食当番に人気が殺到しました。でも、募集人員を決めたので順番待ちをしなければならず、それだけだとなかなかお金はたまりません。最初に決めたルールの中で、一律で住民税を徴収することにしたので、順番待ちをして給食当番をしても、住民税を払わなければいけないので、お金は減る一方で思うようにたまらないのです。
ちなみに、なぜ住民税を徴収するかと言うと、最初のうちはお金を使う機会がほとんどなかったから。給食のお代わりを「アクションワールド」で買わせるわけにもいかないですしね。
「会社」を立ち上げる子が増え始めた
当初は給食当番をひたすら続ける子が多かったのですが、それが儲からないと気づくと、徐々に会社を立ち上げる子たちが増えました。ルールでは、会社をつくるときは助成金を出し、その会社で人を雇うこともオッケーとしました。
ただし、雇った人の給料は、当然自分が払わなければいけません。それでも、なかなか順番が回ってこない給食当番をやるよりは、会社を始めるほうが絶対に面白いと思う子が増え、急激にたくさんの会社ができ始めたのです。
すると、どうなったかと言うと、最初はスーパーデフレが起こりました。なぜなら、まったくお金が回らなかったからです。
会社を立ち上げて画用紙で財布をつくって売った子もいましたが、結局、どの子も一つ買ったらあとは買わない。アクション国では食費などの生活費がなく消費が生まれないため、そもそも消耗品の販売が成り立たないのです。それに住民税を取られて資金繰りが厳しくなりそうだと感じたら、ますますお金を使おうとしない子が増えました。