著者は語る

ノンフィクション作家・青樹明子氏『中国人が上司になる日』

 好き嫌いを越えてビジネス文化を知る

 近年、海外企業による日本企業の買収劇がたびたびニュースに取り上げられています。とりわけ、経済減速が取り沙汰される中でも大きな資本力と影響力を持ち成長する中国企業を、脅威と感じるビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。

 ある日、会社が中国企業の傘下に入る-そんな未来は、もしかするとすぐ近くまで来ているのかもしれません。

 本書では、北京、広州(広東省)のメディアで約10年間仕事をしてきた私の視点から、日中ビジネス文化の違いを紹介しています。

 メンツを何よりも重視する、人脈・コネを大切にする、政治を無視すると何もできない…中国ビジネスの特徴は今や広く知られていますが、実際に中国で働いてみて、予想をはるかに超えた認識の相違に日々、衝撃を覚えたことも事実です。

 例えば、ラジオ番組を制作していた頃、私が驚いたのは、「別件があるので収録日を変えてください」と仕事の予定をドタキャンしてきた中国人社員が、その収録日に、別会社主催のイベントで堂々、通訳のアルバイトをしていたこと。副業を本業より優先するのは、日本人には考えにくいですよね。

 また、初対面の経営者に名刺を差し出した所、「お父さんは何をしている人ですか?」と尋ねられたのにも驚きました。つまり、親が何をしているかで、その人の将来性が分かるんですね。「どんな親の元で生まれるかで人生は決まる」わけで、中国社会の問題点が凝縮されていると言ってもいいんですね。

 このように日本人が驚くのと同じように、中国人のほうも日本流の仕事のやり方に対して、「なんでいちいち、上司に『ホウレンソウ(報告・連絡・相談)』しないといけないんだ」「細かいクオリティーにこだわるよりまずスピードが大切だろう」と違和感を覚える局面は度々あるようです。今回、本書ではそのジレンマも浮き彫りにしました。

 執筆にあたっては、私の仕事体験、日中ビジネス関係者の他、中国資本に入った家電量販店ラオックスの社員、中国IT大手・百度(バイドゥ)の日本支社社員など、実際に中国企業の前線で働くビジネスパーソンに取材を重ねました。もちろん、日本企業で働く中国人の声も取り上げています。

 中国を好き嫌いで捉える時代はもう終わりました。今後は全ての日本人が中国と関わらざるを得ないわけですから、とにかく情報として中国を知ること。これに尽きると思います。ぜひ読んでいただけたらうれしいです。(850円+税 日本経済新聞出版社)

【プロフィル】青樹明子

 あおき・あきこ 愛知県生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学第一文学部卒、同大学院アジア太平洋研究科修了。1995年から2年間北京師範大学、北京語言文化大学へ留学し、98年から北京や広州(広東省)のラジオ局で、日本語番組の制作プロデューサーやMCを務める。2014年帰国。著書に『中国人の頭の中』『中国人の「財布の中身」』『日中ビジネス摩擦』など、訳書に『上海、かたつむりの家』。

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