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ヒートアイランド緩和でコケが活躍 樹木や芝より手軽、屋上・壁面緑化に (1/2ページ)

 東京五輪のマラソン会場変更問題で、改めて地球温暖化やヒートアイランド現象の緩和策がクローズアップされてきた。工場立地法で温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を削減するため一定の緑化が義務付けられ、美しく潤いのある都市空間を創出する要請と相まって、屋上や壁面の緑化面積は増え続けている。植栽は樹木や芝、草花が主流だが、有用性で注目されている素材がコケだ。

 山形市東部の山あい。トンネルを抜けると道沿いに黒い保護ネットが掛けられた棚田が広がっていた。めくり上げると、じゅうたんを敷いたような鮮やかな一面の緑。男性が2人一組で、コケが根付いた、畳より一回り大きい長方形の栽培シートを次々に剥がして運び出していく。

 同市の農業生産法人「モス山形」は、耕作放棄地などを活用して山形県内の約10ヘクタールでコケを栽培している。山本正幸社長以下、パートも含め十数人と小規模だが、コケ製品の国内シェア約8割の地方発トップ企業だ。

 独自の栽培技術を確立し、断熱材になる厚さ約5センチの強化発泡スチロールに、改造した畳の製造機械でコケを縫い付けたコケボードが主力商品。建設会社や建材店に供給している。

 散水や施肥不要

 他の緑化植物に比べて扱いが容易なのがコケのセールスポイントだ。乾燥しても仮死状態になるだけで枯れず、降雨で再生するので水やりはせずに済む。肥料も基本的に不要。土壌なしでも育つので軽くて施工しやすく、維持費用も抑えられる。

 他方、芝は1平方メートル当たり年3000リットルの水が必要とされる。屋上緑化の場合、くみ上げにも電力を消費し、刈り込みや施肥なども必要になる。山本さんによると、結果として芝は光合成で吸収する数倍の温室効果ガスをもたらすとした米・カリフォルニア大の調査もあり、欧州では散水装置を併設した緑化は認めない方向になっているという。

 環境緑化の大きな目的である温度の低減作用は、芝や草花と遜色ない。

 「予想以上の効果」と話すのは、今年6月にコケボードを導入した小島洋酒店(山形県米沢市)の小島一晃社長室長。この夏の実証検査では、外気温30度超の時に屋上設置していない倉庫内は約36度だったが、施工箇所の下の部屋は約26度に抑えられた。「ランニングコストもかからず、メンテナンスもほぼ要らない。環境に優しく、企業イメージの向上にもつながる」と太鼓判を押す。

 国土交通省が東京五輪の暑さ対策も念頭に進める環境緑化の実証調査パートナーに15社を選定している。ほぼ大手だが、モス山形もコケ利用で唯一選ばれた。屋根部分の羽板や支柱にコケを施して風通し良く温度が下がりやすくした日よけ構造物「コケルーバー」が競技場の入場待機列などで活用される見通しだ。

 コケは政府が旗を振る地方創生にも役立つ。栽培地の7割で耕作放棄地を活用しているほか、軽作業のため、高齢者や障害者でも栽培・管理が可能だ。栽培面積の拡大によりさらに地元の農家を含む幅広い年齢層を雇用できる。また、農家所得のアップにもつながり、農業の活性化にも寄与する。

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