腸内細菌叢(そう)(腸内フローラ)と健康との関係に関心が高まっている中、先月、東京都港区のヤクルトホールで「腸内フローラと健康長寿」と題するシンポジウムが開かれた。
内外の研究者による講演のうち、私たちの生活に直結しそうな話題が、東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チームの青柳幸利・専門副部長による報告だった。発酵乳製品の摂取と適度な身体活動を習慣化すれば、高齢者の生活習慣病リスクを下げる可能性がある、というものだ。
青柳さんらは、2000年から群馬県中之条町の高齢者5000人を対象に疫学研究(「中之条研究」)を続けている。対象者に加速度センサー内蔵の身体活動計を着けてもらい、24時間365日連続して歩数と中強度(安静時の代謝量の3倍以上)の活動時間を記録する。併せて、遺伝子情報を含む検査や食事、健康調査をした。
その結果、健康長寿に必要な1日の歩数と中強度活動時間が分かってきた。例えば、1日4000歩以上歩き、そのうち中強度活動時間が5分以上あれば、鬱病を予防する可能性がある。
さらに、1日5000歩、中強度活動7.5分で要支援・要介護、認知症、脳卒中、心臓病の予防に、1日7000~8000歩、中強度活動15~20分で、がん、動脈硬化、骨粗鬆(こつそしょうしょう)症、糖尿病、脂質異常症、筋減少症、体力低下の予防につながる可能性がある。75歳以上では、1日8000歩、中強度活動20分でメタボリックシンドロームの予防につながる可能性があるという。
これを踏まえ、青柳さんらは、中之条町に住む65~93歳の男女352人を対象に、過去5年間におけるL.カゼイ・シロタ株(LcS)を含む発酵乳製品を取る頻度と高血圧との関係を調べた。すると、高血圧発症率は週3回以上取る人(6%)の方が3回未満の人(14%)より統計上低かった。
LcSを含む発酵乳製品を週3回以上取れば、高齢者の健康長寿、特に高血圧発症リスクの低下につながることが示唆される、と青柳さん。
また、65~92歳の男女338人を対象に、腸の運動機能を高める可能性のある2つの要因、すなわちLcSを含む発酵乳製品の摂取と日常身体活動が便の細菌叢や便秘におよぼす効果を調べた。その結果、発酵乳製品を頻繁に取る人ほど、便中の総ラクトバチルスなどの菌数が多かった。身体活動量では、便の細菌数に違いは生じなかった。