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老後資産形成へ税制優遇でも「iDeCo」が広まらない本当の理由 (1/3ページ)

高橋成壽
高橋成壽

 老後資金2000万円問題で日本中を疑心暗鬼に陥れた金融審議会レポートには、老後資金対策としてiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の活用が含まれていた。iDeCoの公式サイトによると、2019年6月時点での加入者数は約128万人と国民の100人に1人である1%が加入している計算だ。公的年金の被保険者数は平成29年度末で6733万人のため、現時点での被保険者数を6700万人と仮定すると、128万人÷6700万人×100=1.9%の加入率である。老後資産形成を促すための税制優遇制度であるiDeCoは何故広まらないのか。ファイナンシャルプランナーが相談を通じて感じた消費者の気持ちや、過去に運営管理機関からヒアリングした内容を踏まえて、働く人々がiDeCo加入に踏み切れない現実を5つまとめることとした。

 手続きが面倒で申込書の提出に至らない

 筆者が自らiDeCoに加入する際、運営管理機関の担当者から聞いたのだが、資料請求から加入に至る割合が非常に低いということであった。理由は簡単で、素人には内容が難しすぎるとのこと。資料を読んでもよくわからず、口座開設に至らないという。

 iDeCoは制度の特徴から、仲立ちとなる人がいない。そのため、加入の手続きは自己責任で完結させなければならない。世の中に情報があふれており、調べようと思えばいくらでも調べることは可能だ。しかし、調べた情報を自分事に落とし込んで、理解し記入するということは調べることとイコールではない。「調べたけどわからないからやめた…」、「今日はもういいから、時間のあるときに…」という人が多いのだろう。そうでなければ、税制メリットのある制度をやらない理由はない。手続きの流れが煩雑だったのだ。

 今後、マイナンバーカードが強制配布となり、個人の税金や社会保険の情報が一元的に管理できるようになれば、この辺りのわずらわしさが軽減する可能性はある。しかし、現状は面倒な事務を自分でこなさなければ加入にたどり着かないのである。仕事や家庭が忙しい人には、読むのが大変、書くのも大変では書類作成と提出までたどり着かないだろう。

 会社員、公務員の場合は勤務先での手続きが必要

 筆者がファイナンシャルプランナーとして相談を受けている中でiDeCoの相談もある。加入を希望し、iDeCoの手続き段階になり、会社で印鑑を押印してもらう必要があると伝えると、全員渋い表情をする。そして、全員「諦めます」というのだ。

 つまり、会社に自分の財産を明かすような行為はやりたくないということだ。社内の人事や総務に投資している事実を知られたくないということでもある。iDeCoの知名度が上がり、加入者が増えればこのようなハードルは低くなるはずだが、現時点では社内に資産を知られたくない。余計な情報を社内に公開したくないという意識が働くようだ。

 相談される方々の会社への信頼感が欠如しているように思えるし、実際にそのような勤務先なのかもしれない。もし、読者の方が人事や総務部門で、自社の社員のiDeCo加入率が低かったならば、皆さんが社内で信頼されていないということの表れなのかもしれない。中小企業の場合は、社長や社長の配偶者が総務全般を取り仕切っているだろうから、遠慮してしまうという人もいるだろう。いずれにしても、社印が必要というステップで、多くの人がiDeCo加入に脱落している事実を認め、加入の流れを改善する必要があるだろう。

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