公共交通機関を軸にしたコンパクトシティ戦略に取り組み、地方経済再生への足掛かりを得た地方自治体がある。富山県の県都、富山市だ。人口減少問題への危機感が今ほど強くなかった2003年に、将来を見据えて中央の都市部に集中投資を始めた。さらに、IoT(モノのインターネット)を活用したスマートシティの構築にも着手し、戦略は総仕上げの段階に入っている。
路面電車の街は持続可能な「環境モデル都市」
地球規模の温暖化が進み、その対策が求められる中で、富山市は2008年、世界の先例となる「低炭素社会」への転換を進める「環境モデル都市」の一つに選定された。
富山市の森雅志市長は「路面電車やバスなどの公共交通機関を活性化させ、その沿線に居住、商業、ビジネス、文化などの都市機能を集積させることにより、中心市街地の活性化を目指したもので、その結果として、地球環境にも優しい街と評価された」と話す。
富山市のコンパクトシティ戦略は、例えるなら「お団子と串」だ。サービスレベルの高い路面電車などの公共交通機関が「串」で、沿線の徒歩圏に居住、商業、文化などの機能を持った「お団子」を配置する。いわば、拠点集中型のコンパクトなまちづくりだ。
過度に自家用車に依存したライフスタイルを転換し、「歩いて暮らせる街」の実現を目指した。全国で初めて、新幹線の高架下に路面電車の停留所を設置し、北陸新幹線の改札口から約38メートル歩くと、雨や雪を気にせずに路面電車に乗り換えることができる。
森市長は「富山市が意識しているのは、『フラットな移動が可能な地表レベルで暮らせる街』です。ペデストリアンデッキなどの構造物で垂直移動を増やすのは、高齢者社会にはふさわしくない」と話す。