日本には公的な医療保険制度があり、病院にかかっても自分で払う金額は3割までということになっています。しかしそれでも病院に通い、検査代や薬代を払い続けると、それなりの金額になり、大きな負担と感じる人もいます。
糖尿病で私のクリニックに通院する50代後半の男性患者さんは、金銭的にあまり余裕がない生活を送っていますが、どうしても通院が不定期になり、しばしば薬を切らす期間もできてしまいます。なかなか検査も受けられません。食事も、金額的に安くお腹(なか)にたまる糖質が中心になってしまうようです。
ノルウェーで家庭所得と寿命の関係を調べた研究結果が、今年5月に米国の医学雑誌に発表されましたが、所得が高いほど寿命は長いというものでした。2011年から2015年までの所得上位1%の寿命は男性84・4歳、女性86・4歳で、下位1%と比べそれぞれ13・8年、8・4年長く、所得の高さで4グループに分けて比較した結果も、最上位グループは最下位グループに比べ男性で8年、女性で6年長くなっていました。
ノルウェーより所得格差が大きく、公的医療制度が整っていない米国も、2016年に発表された研究では同様の傾向でした。
ただ、ノルウェーは米国に比べ低中所得者中心に男女とも寿命が長いという結果のため、格差や制度上で両国の間に位置するとも言える日本は、低中所得者の医療費を軽減するなど、行政が行えることが多々ありそうです。
所得格差が寿命に影響する原因は、医療費以外にもいろいろ考えられます。一般に低所得者ほど喫煙率は高いといわれますし、運動習慣や食生活の違いもあるでしょう。私たちは、たばこを吸わない、運動習慣を身につける、健康的な食品を選ぶといった当たり前の努力を続けることが大切です。
病気があれば治療は受けなくてはなりません。もし経済的に余裕がなければ医師にそう伝えましょう。必要最小限の検査とジェネリック薬品の使用といったことを考えてくれるはずです。(しもじま内科クリニック院長・下島和弥)=次回は25日掲載予定