お金で損する人・得する人

「老後2000万円」でも心もとない 資産形成は準備期間で“戦略”を練る (1/3ページ)

高橋成壽
高橋成壽

 令和の日本に激震が走った。5月に発表された金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」には、平均的な家庭は老後資金が2000万円不足するという衝撃の内容であった。

報告書の分析は的を射ているか

 より正確に言えば正式版の報告書に先立って公表された金融庁の報告書案の中で、「(老後資金は)30年で約2000万円が必要」「公的年金だけでは生活水準が低下」といった文言が盛り込まれており、これに批判が殺到したのだ。

 報告書の分析は的を射ているのだろうか。論理を私なりに追い、問題を検証してみよう。

 60歳時点の平均余命によると、2人に1人が90歳、4人に1人が95歳、10人に1人が100歳まで生きることになる。人生100年時代には、老後資金不足のほか、認知症などにより、高齢期の財産管理が困難になることが想定される。

 公的年金は、景気停滞、賃金低下、少子高齢化などを考えると、給付額が抑制されることとなる。税金や社会保険料の国民負担も重くなることが予想される。

 退職金制度は、実施企業は9割から8割に低下しているものの高い水準を維持している。一方で退職金額について20年前は3200万円が平均であったが、現在は2000万円ほどと、ピーク時の6~7割となり、1200万円減少している。

 老後の生活水準は、統計上の数値で考えると、収入が年金を含めて21万円、支出が26万円となり、毎月5万円不足している実態がある。日本では高齢者の就労率が高く、60代後半では男性の2人に1人が、女性の3人に1人が働いている計算だ。

 毎月5万円が不足すると考えると、年間で60万円、65歳から95歳までの30年間で1800万円必要となる。さらに、介護費用や住宅のリフォームなどを考慮すると、さらに資金が不足する。こうしたことから、金融庁のレポートでは、30年で約2000万円の貯蓄が必要と結論付けたようだ。しかし、65歳時点での貯蓄など金融資産の保有額は、単身男女では1500万円ほど、夫婦なら約2250万円に達する。

 年金中心の収入と支出の差による老後の赤字額が1800万円である一方で、老後の貯蓄が2250万円程度はあるのだから、今の高齢者は平均的に預貯金を取り崩せば最低限の生活水準を保つことができる計算である。

 とはいえ、人々がその預貯金額で本当に安心できているかというと心もとない。内閣府が実施したアンケートによると、老後生活に関する不安をもつとの回答が多数を占め、老後の不安要因の1つがお金であることがわかっている。つまり、理想的な老後の備えとしての預貯金額と、実際の預貯金額に大きく差が出ていることが、今回の「老後2000万円問題」をきかっけに広がった不安の一因になっているようだ。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus