データから最適な予測モデルを作成
では、AIによって電話の接触率はどう向上するのだろうか。
「家族の人数や年齢、性別で世帯を階層分けし、これまで市が蓄積してきた過去の折衝データなどをAIに読み込ませる。折衝データの中には過去に電話をかけて応答があった時間帯などの情報もあり、これらの情報からAIが予測モデルを作成。国保料の滞納者の接触率の高い時間帯を導き出す」と、業務を委託したNEC神奈川支社・公共ソリューション営業部の鉄野善教部長は説明する。
これは「異種混合学習」というNECが開発したホワイトボックス型AIを活用したもので、多種多様なビッグデータから複数の規則性を自動で見つけ出す。通常、条件が変わるデータを高精度で分析するのは難しいが、データのパターンから参照する規則性を自動選択し、その規則に基づいて状況に応じた最適な予測モデルを作成する。裏付けとなる根拠も示すため、人間が想定していない予測が出ても納得して業務を進めることができ、精度も非常に高い。
分析すると、意外な結果が…
実際にAIで予測モデルを立てたところ、単身者や家族世帯、高齢者世帯などそれぞれの属性に応じて接触率が高い時間帯に違いが表れたという。
「例えば、小学校に通う子供がいる世帯の場合、子供が帰宅する午後3時以降にお母さんが在宅しているケースが高いことが分かってきた」と川崎市健康福祉局医療保険部保険年金課・収納管理課(兼務)の冨田義憲システム担当係長は話す。
他にも、75歳以上の後期高齢者世帯の場合、午前の早い時間帯か、午後2時~3時の時間帯に電話がつながりやすい。これは午前中に病院に通院する人が多く、通院前後の時間帯の接触率が高くなるからだ。20代の単身世帯は、午前中はほとんど電話がつながらない。無職の人でも午前中は寝ていて電話にでない傾向があり、遅い時間ほどつながる率が高くなるという。
「AI導入の前後を比較すると、接触率が上がっている。最初の電話で応答する割合も増えている感じだ」とコールセンターの黒田雄大副統括管理は評価する。川崎市によると、接触率は5.98%ほど改善(19年2月時点)しているそうで、より深い分析を行い、接触率の一層の向上を目指す。電話催告の接触率の改善によって、保険料の収納業務のさらなる効率化につながる期待が高いからだ。