自衛隊では「休むこと」を「戦力回復」と呼ぶ。なぜなら休息は、戦略の成功確率を上げるために欠かせない要素だからだ。自衛隊トップの役職である統合幕僚長を務め、映画『シン・ゴジラ』の統幕長のモデルともされる伝説の自衛官・折木良一氏が、仕事の成果を出すうえで重要な「休み方」のコツをアドバイスする--。
※本稿は、折木良一『自衛隊元最高幹部が教える 経営学では学べない戦略の本質』(KADOKAWA)を再編集したものです。
「人は疲弊する」が自衛隊の大前提
2012年1月に退官するまでの約3年間、私は陸海空自衛官の最高位、制服組のトップである統合幕僚長(統幕長)の任に就いていました。
40年に及ぶ自衛官人生は、前半の「昭和・冷戦」と、後半の「平成・冷戦後」の時代に分かれます。前半と後半では、自衛隊の思考も、行動・交流範囲も、役割も、大きく変化しました。1989年11月にベルリンの壁が崩壊すると、その翌月に地中海のマルタで米ソ首脳会談が開かれ、冷戦の終結を宣言。その2年後にはソ連が崩壊します。ひたすら「冷戦」を考えて任務や教育訓練に励んできたわれわれ自衛官からすると、あっけない幕切れでした。
ソ連侵攻に備える北海道の部隊に長く赴任したあと、企業の本社機能にあたる陸上幕僚監部や全国各地での指揮官などの勤務を経験しました。冷戦後の時代は自衛隊の海外活動が徐々に増え、2003年に始まったイラク戦争では、陸幕副長としてイラク復興支援のサマーワ派遣部隊を視察・激励し、現地の厳しい状況を目の当たりにしました。