平野さんが宮崎出身で、香織さんも福岡の生まれということで、移住先は自ずと九州になった。そして、豊かな自然や、ブランド農産物の存在などを勘案して糸島に移住先を定め、毎月4万5000円の住宅ローンを組んで1800万円の中古住宅を購入した。
月給12万円で2年間の修行生活
移住してすぐ、平野さんは市の職業訓練に応募して、飲食店での実習や農業研修などを受けた。それからゴルフ場のレストランに1年半勤めるなかで転機となる出会いを得る。糸島から車で2時間ほどの田川郡川崎町にある、ヘルシー料理が人気のレストラン「ラピュタファーム」のことを知ったのだ。
「ランチバイキングがメーンで、朝採れた野菜や果物を使って40~50種類の料理を出しています。すぐにこの店が大好きになり、働かせてくださいとお願いしたんです」と平野さんは話す。
しかし、その際に提示された条件は厳しかった。まず、朝が早いので店の近くに住むこと。そして、給料は最低賃金レベルしか払えないこと。でも、平野さんはそれらを受け入れた。
そして、家賃4万8000円のアパートに家族3人で住み始めた。一方、糸島の自宅はそのままで、ローンの返済もある。約12万円の月給は、これらに大半が消えた。「退職時の貯金約600万円を取り崩す生活が続き、2年間の修業が終わったとき、半分に目減りしていました」と平野さんはいう。
働く両親の姿を誇らしく思う息子
糸島に戻り、もう1年レストランで働いた後、開業資金1200万円で念願の店を開いた。店名の「ダンザ パデーラ」は、イタリア語で「踊るフライパン」の意味。店内は100平方メートル弱と広く、その家賃は月14万円だ。
「糸島野菜を出す店はたくさんありますが、料理の一部だけだったり、思う存分食べたいお客さまには、不満なことがわかりました。それなら糸島野菜を主体にしたメニューを取り揃えたら、潜在需要が掘り起こせるはずです」