油脂を控える。カロリーを抑える。これらはダイエットの常識だった。しかしこの「常識」は、ダイエットを失敗させるだけでなく、健康においても悪影響を及ぼしかねないという。『カロリー制限の大罪』(幻冬舎新書)を上梓した北里研究所病院 糖尿病センター長の山田悟医師が、最新の栄養学の知見を紹介する。
カロリー制限は「期待薄」
長らく健康やダイエットのために一番だといわれてきた「カロリー制限」ですが、私が知るかぎり、カロリー制限の優位性を示すエビデンスは、医学界には存在しません。
みなさんが信じてきたカロリー神話は、いわば迷信なのです。
私は医師として、迷信を迷信としてみなさんに認識していただくために、世界の学会や信頼に足る医学雑誌からエビデンスを収拾し、機会があるごとに発信してきました。その中からいくつかのエビデンスをご紹介しましょう。
まず、2008年にアメリカの医学雑誌『The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE』で発表された、「低脂質カロリー制限食」「地中海食」「低糖質食」を比較した論文です。*1
それまでは肥満や糖尿病などの治療のためには低脂質食にしてカロリーを制限するのが当たり前でした。が、この常識を覆したエビデンスが列挙され、この論文をきっかけに世界の栄養学は激変を遂げたのです。
簡単に解説をすると、この論文では「低脂質カロリー制限食」「地中海食」「低糖質食」の3つの食事グループに分け、複数の項目に関して2年間、さらに6年後までデータを集計しました。
低脂質カロリー制限食は、カロリーを男性で1日1800kcalに制限しました。
地中海食は、カロリー摂取自体は低脂質食と同じですが、オリーブオイル、ナッツ、魚脂の摂取は奨励しました。つまり、良質といわれる脂質はどんどん摂ってもよい、というグループです。
低糖質食は、カロリーを制限することなく、糖質だけを制限したグループです。