年間720時間の残業が上限に
政府が主導する働き方改革実現会議において、残業時間の上限規制に関する議論が続いてきた。これまでは労使が合意していれば、事実上、無制限だったが、今後は月45時間、年360時間が原則的な上限になる見通しだ。また労使で合意すれば繁忙月は100時間未満、そしてこれを含む年間720時間までの残業が認められる。
そもそもこの議論が始まったのは、長時間労働による過労死が後を絶たないからであった。では一体、どれだけ残業すれば健康を害するのか、改めて検証したい。
脳・心臓疾患の労災認定基準では、時間外労働が単月で100時間超、2カ月ないし6カ月の平均で80時間超が基準とされている。この数字は何が根拠になっているのか。2001年、厚生労働省が脳・心臓疾患の労災認定の基準を作るため、専門家を集め検討会を開き、世界中の医学的根拠に基づく研究結果を総合的に解析した。その検討会では、次のような結論に達した。まず時間外労働が月45時間以内なら、健康障害を起こす危険性は低い。一方、時間外労働が月100時間を超えるか、もしくは2~6カ月の平均が月80時間を超えると、健康障害のリスクは高くなると判断される。
残業時間が月100時間で20日勤務の場合、1日の残業時間は5時間だ。この研究において1日のうち睡眠を含む休息の平均時間は、約10時間と見積もられていた。残業が増えるほど休息時間は削られていくわけで、もし5時間残業すれば休めるのは5時間。それを全部睡眠に費やしたとしても、睡眠時間が5時間を切る。その状態が長く続くと、心臓病や脳卒中の発症リスクが高まることが、これまでの研究で判明している。