なぜリーダーになれない? 東大卒の3分の1は社会で活躍できない理由 (5/6ページ)

2017.4.30 13:00

ナガセ 社長永瀬昭幸(ながぜ・あきゆき)1948年、鹿児島県生まれ。東京大学経済学部在学中に学習塾を開校。74年野村證券入社。同社退社後、76年にナガセ設立。85年「東進ハイスクール」を創設。88年株式を店頭公開。生徒数約30万人を擁する日本最大規模の民間教育機関を率いる。
ナガセ 社長永瀬昭幸(ながぜ・あきゆき)1948年、鹿児島県生まれ。東京大学経済学部在学中に学習塾を開校。74年野村證券入社。同社退社後、76年にナガセ設立。85年「東進ハイスクール」を創設。88年株式を店頭公開。生徒数約30万人を擁する日本最大規模の民間教育機関を率いる。【拡大】

 【弘兼】時代によって、子どもたちの気質は変わったと感じますか?

 【永瀬】はい。以前の子どもは叱られて伸びる「叱られ世代」でした。一方で、今は褒められると頑張る「褒められ世代」になっています。

 【弘兼】僕たちの世代は自分たちがガツンと言われてきたので、褒めるのは苦手ですよね。

 【永瀬】今の30代半ばから上はまだ、叱るでも通用します。でも下は反発してしまいますね。うちでは「短所矯正型」から「長所伸長型」と呼んでいますが、短所を指摘する教育から褒めて自信を持たせて長所を伸ばす教育へシフトしています。

 【弘兼】確かに人間は褒められたほうが嬉しいですしね。

 【永瀬】東進では否定語は使わず、生徒には自ら求め、自ら考え、自ら実行することを基本ルールとしています。

 【弘兼】意地悪な言い方をすると、塾・予備校というのは志望校に合格させるための施設です。いわば試験に必要な知識を詰め込めばいい。永瀬さんの話を聞いていると、そこを目指しているわけではない。

 人工知能に負けない仕事力の養い方

 【永瀬】以前、三井住友銀行の人事担当を経て専務になったラ・サールの後輩とこんなやりとりがありました。「自分の成績などの情報をコンピューターに入力することで、どの講座をどのように受ければ絶対に志望校に合格するかが自動的にわかるシステムをつくり上げたいと思っている」と。すると彼から「先輩、申し訳ありませんが、それは要するにバカをたくさんつくるということですね」という言葉が返ってきた。それを聞いて私はガーンと衝撃を受けた。そこからクリエーティブな人間をたくさん育てていこうと志し、仕組みをつくり上げているのが今ですね。

 【弘兼】先ほど話に出た、「グループ制」のリーダー育成と密接に関わってくる気がします。永瀬さんの考えるリーダーの資質とはどのようなものでしょうか?

 【永瀬】コミュニケーション力、カリスマ性などもありますが、最も大切なのは「志」。自分はなぜ勉強するのか、将来何をしたいのか。学びの根っこにあるのはそこです。うちのグループの1つ「四谷大塚」では小学生を対象とした「全国統一小学生テスト」で小学4年生の成績優秀者を30人選抜し、アメリカの名門大学などを視察する取り組みを実施しています。優秀な子どもたちが10日間も団体行動してディスカッションを続けていくと次第に変化が起きる。最初は医者になってお父さんの病院を継ぐと言っていた子が、「基礎研究に従事して副作用のない薬を発明したい」と言い出すこともある。

 【弘兼】自分の周りのことだけでなく、高い視野から物事を見るようになる。そういう人間をリーダーとして育てていくのですね。

 【永瀬】東大を出ても世の中であまり活躍できていない人が3分の1ぐらいはいると思っています。そのほか3分の1は普通で、極めて優秀な層も3分の1です。受験の点数がどれだけ高くても、エゴイストである人はリーダーになれません。

 【弘兼】人望がない人の下には誰もつきたくない。

 【永瀬】その通り。日本再生のためには強いリーダーが必要です。これからは問題や課題を解決する人材を育てなければなりません。うちも今2月1日付でAI開発室を新設しましたが、30年後にはAI(人工知能)の発達で今ある仕事の60%はなくなるという予測もあります。未来を担う人が問題解決能力を養い、リーダーシップを発揮していかねばなりません。

 (構成=田崎健太撮影=大槻純一)

イノベーションの原点は薩摩藩&ラ・サール

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