町内に魚病の検査機関がなかったときは北部の宇和島地域にある県の施設に出していた。「結果を知るためには電話をかけなくてはならないのに、夕方の5時を過ぎるともう閉まっていて。いまは水産課からのメールで結果を知ることができる。現場の漁場にも直接連絡が入るので餌をやっているひとたちもすぐ対応できる。ものすごく便利になりました」と安岡社長は話す。
町から提供されるこうした「水域情報可視化システム」と「魚健康カルテシステム」をベースに安高水産は、給餌、魚の状態、水質状況の管理を組み合わせて同社独自のシステムを構築。それを見ながら毎日の餌のやり方を決めている。その結果、全長8センチほどだった稚魚は2年で50センチほどの立派なマダイに成長する
水揚げ作業は壮観だ。海水ごとクレーンで引き上げられてきたピチピチの成魚を水槽に移す。跳ね回る魚をすばやく手でつかみ、内部が横に区切られたケースに個体別に立てて納めていく。これをケースごとに海水を満たしたトラックの水槽に積み込んで、活きたまま関西地方に届けるのだ。
関東向けに特注の機械で絞めたマダイの出荷もあり、毎朝7時すぎから夕方4時半くらいまで休憩をはさんで作業が続く。水揚げ高は季節によって違うが、毎日平均5000匹、出荷高は年に約180万匹にのぼり、1キログラムあたり700円から800円で取引される。社員はベテランから若い人まで28人。「みんな地元出身、顔なじみですよ」と安岡社長はさわやかに笑った。
養殖マダイの出荷量で全国で1、2位を争う愛南町。地元の雇用にも貢献する水産業振興の背景には、町、大学、漁協、そして漁業従事者の連携がある。