日本で産業スパイ事件が相次ぐなか、中小企業の技術流出を防ぐ取り組みが遅れている。下請けの弱い立場につけこまれて機密情報を大手の取引先に漏らしてしまうケースが目立つ。せめて秘密保持契約などで保護しておけば、流出した場合に法的手段に訴えることができるが、下請けからは知財保護を求めにくいのが実情で、泣き寝入りは少なくない。大企業の情報流出が日本の産業競争力の低下を招くと指摘されるが、企業数で日本全体の9割以上を占める中小の知財防衛策は、さらに置き去りにされている。(板東和正)
「弱い立場」を狙う罠
「うちに納めている部品の製造方法に興味がある。誰にも言わないから教えてよ」
関東で電子機器の部品を製造する中小企業の男性幹部は数年前、部品を納入していた大企業の担当者からそう頼まれた。
男性幹部は、独自ノウハウの流出を恐れ、担当者の申し出をしばらくは断っていた。だが、何度も頼まれるうちに、男性幹部は大事な取引先の機嫌を損ねることを懸念。最終的に納入していた部品の製造工程が一目で分かる図面の資料を担当者に渡してしまった。