定刻の2分前にフアランポーン駅を出発したタイ鉄道東北線南線快速列車135号は、順調に1時間以上遅延し、むっとするような熱気の立ちこめた車内の空気はだれきっていた。乗車してすでに5時間。観光客はほとんど乗っていない車内を2往復もすれば、乗務員も売り子ももはや顔見知りだ。
暇を持て余し、どこまでも延びた線路を写真に収めようと、最後尾の窓にカメラを押し当てる。しかし磨かれているはずもなく、傷だらけの薄汚れたガラス越しの風景は、なんとも冴えない。
あっと思う間もなく、ぐわっと吹き込む風にあおられた。車掌が私の肩越しに扉を開けたのだ。「これでいい写真を撮れる」。親指を立てて笑顔をみせ、きびすを返した。
検札に来ても、ろくにきっぷを見ることもせず、おしゃべりばかりしている彼は、なんとも気ままに鉄道の旅を楽しんでいるようだ。停車駅のプラットフォームでは、わざわざ同僚を探してきて、記念撮影をしてほしいと言う。しつこいようだが、この時点で、列車はすでに定刻より1時間以上遅れている。定時運行が当たり前になっている日本人の私は焦るが、周囲の乗客はだれもいらいらしたそぶりを見せない。