■一瞬一瞬にささやかな祝福
写真家がいれば、フィットネスの個人トレーナーもいる。人には理解されにくい病気に悩んでいる者がいれば、人知れず妊娠して悩んでいる者もいる。けれど、誰かが「この世界の」と口にするとき-その目にはいったい何が映っているのだろう?
表題作は、4人の男女と1つのテーブルをめぐるストーリーだ。数々の趣向を凝らした手料理に加えて、各人に合わせたワインを用意して待つ女のもとに、夫と、夫の養父と、その恋人がやってくる場面から幕をあける。それぞれのカップルの間に横たわる齟齬(そご)と倦怠(けんたい)。どこか排他的な父子関係。ちいさな、でもやり過ごすことは難しい軋(きし)みの存在を会話や視線に含ませながらも、料理のテーブルはつつがなく進行していく。ところが、贈答用にとっておいた特別なワインに養父が目をつけたことで、完璧にあつらえられていたはずのディナーがあっけなく決壊する。