■謎の著者による謎解きの書
読書のさいにはたいてい、ふせんを手にしている。
一種の職業病で、「後々、引用してやろう」と思う文章に目印をつけるためだ。
ふせんを張り付けているばかりでは芸がない。だから、赤ペンで「見事!」とか「本当か?」などと、短く感想を書き込んだりもする。
《よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ》-という明治天皇の御製(ぎょせい)を軸に、開戦前から崩御に至るまでの昭和天皇の御心(みこころ)と秘史に迫るこの謎解きの書を読了したとき、赤文字が躍るふせんの数々が各ページにそそり立ち、さながら剣山のようであった。
読書は、著者と読者の知的格闘の営みともいえよう。小生には過去、本書が扱う時代について何度か連載を担当したことがあった。初めて手に取り、「歴史の黒白(こくびゃく)を見事、反転!」「日本的意思決定の正体を解明!」という表紙の帯を目にしたとき、「ならば挑戦」という反骨心がうずくのを禁じ得なかった。
が、圧倒された。
異論をとなえたくなる箇所が散在するにもかかわらず、その出典の多彩さと豊かさ、そして行間からほとばしる著者の情熱に、である。その熱は光だけでなく、陰翳(いんえい)をも放っている。だが、それゆえに読む者の心に突き立つ。
さて、この謎解きの書を読み終えてもなお解けぬ謎が残る。なぜ本書の著者が「平山周吉」なのか-。