■積み重なる時から描く日本
家族のあり方を問う作品を多く発表してきた作家、柳美里さん(45)が、構想から12年をかけたという長編小説『JR上野駅公園口』(河出書房新社)を刊行した。出稼ぎのために福島県から上京し、やがてホームレスとなって人生を終えた男の生涯を通じ、報道されない被災地の過去や現在、そして日本の姿を描く。(戸谷真美)
執筆のきっかけとなったのは12年前、上野駅でホームレスの男性を見かけたことだった。その後、上野公園のホームレスを取材した際、ある男性がこう言った。「あんたには(家が)ある、俺たちにはない。ある人に、ない人の気持ちはわからないよ」。返す言葉が見つからなかった。
「その言葉はずっと心に刺さっていた。そんなとき東日本大震災が起きて、津波や原発事故で避難を余儀なくされた人たちと出会って、『家をなくす』ことの意味ともう一度向き合わざるを得なかったんです」
柳さんは、震災直後の平成23年4月から福島県に通い続け、翌年からは週に1度、南相馬市の臨時災害FM局で地元の人と対談する番組のパーソナリティーを務めている。