最近の映画は、なぜあんなにはやっているのかと思いますね。今の若い世代は戦記物を読んでいませんから、特攻など本当に悲惨な全体像を知らずに断片を描いたものを見ているのかもしれない。だから、新鮮に映るのかもしれませんね。
僕は「全体ドキュメント」という発想をずっと持っています。零戦が生まれてから死ぬまでを徹底的に全部書いたのは、これが初めてでしょう。物事の本質を見るためには全体像を把握しないといけない。同時にディテールを見ていく。両者が相まって初めて、人間が今という時代に生きている姿が見えてくる。読者の方々には、作品を通して零戦の全体像を知ってもらえればと思っています。=月1回掲載します。
【プロフィル】柳田邦男
やなぎだ・くにお 昭和11年、栃木県生まれ。東大経済学部卒業後、NHK入局。連続航空機事故を追った『マッハの恐怖』で47年、大宅壮一ノンフィクション賞。作家業に専念するため49年にNHKを退職。54年『ガン回廊の朝』で講談社ノンフィクション賞受賞。巨大システムの事故、医療事故、災害の分析ドキュメントを数多く手がける。近著に『終わらない原発事故と「日本病」』など。