本書のもう一つの特徴は豊富なケースの例示である。例えば30万人以上いる従業員の退職可能性(フライト・リスクと呼ぶらしい)を社員データから算出するケースや、買い物データから女性が妊娠しているかどうか(もちろん、妊娠している女性ならではの買い物予測を可能にするため)を予測するケースなど、まるでこの世の中には分からないことなどないと思えるような例が盛りだくさんだ。
しかし、このような予測分析は、一歩誤ると個人のプライバシーの侵害という負の側面をもたらしかねない。それはもちろん、退職や妊娠といった個人にとってプライベートな事情そのものも、ビッグデータの解析から分かってしまうからである。だからこそ「ヤバい」と題されたのかもしれないが、この諸刃(もろは)の剣をどう使うかはまさにこれからの人間の心根一つなのだ。(阪急コミュニケーションズ・2100円)
評・林光(社会評論家)