□『沖縄の絆 父中将から息子へのバトン 大田實と落合●』
■継承された人命尊重の精神
主人公はふたり。20万人近い犠牲者を出した昭和20年の沖縄戦の惨状を「県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」との有名な自決電文に奏上(そうじょう)した大田實(みのる)中将。そしてその息子であり、平成3年、事実上日本初のPKO(国連平和維持活動)として約1200発の機雷除去のため灼熱(しゃくねつ)のペルシャ湾に向かった海上自衛隊の指揮官・落合●(たおさ)海将補、その人だ。
本書はこの父子に共通の人間性と指揮官としてのありよう、原点を描いたノンフィクション。タイトルの「沖縄の絆」は、敗戦後いわゆる“口減らし”のため養子に出された三男・●が自衛官となり沖縄勤務を拝命、自決した父の精神を受け継ぐかのように当時まだ旧日本軍アレルギーが強かった県民の心に寄り添ってゆく姿に基づく。
時空を超えた父子の生き方という縦軸を、沖縄とペルシャ湾という横軸で切る難しい構成に挑戦し、読ませる。たとえば機雷の掃海作業場面。センサーの陰となる範囲を判断し、ダイバーが海底を這(は)うように潜行接近する。「掃海屋」の現実的な視点から1隻は触雷すると考え、棺用の白木を積んでの任務。しかもこの掃海実務の原点は昭和20年の春、米軍が日本近海に敷設した約1万3千発の対機雷戦にあったという戦後史が明らかにされる。
ふたりの「人命尊重の精神」も重要なテーマだ。軍人・大田は『先(ま)ず部下を思え』を信条とし、部下の死を悼んだことでは屈指の将官だった。息子は「判断に迷ったら安全に転ぼう!」と部隊に語りかける。“生き様(ざま)DNA”は確実に受け継がれていた。
著者は現役の国家公務員。新婚旅行で防衛庁(当時)勤務の夫と訪れた那覇郊外の戦跡見学から大田中将に関心を持った由。表紙写真は「湾岸復興貢献国に感謝する」趣旨で当時販売されたTシャツで、「『日の丸』がない!」と物議を醸したもの。その顛末(てんまつ)や自衛隊派遣をめぐる当時の政治家の裏の姿なども多々記されている。解説はメディア登場も多い元外務官僚の軍事研究家。最近の国際政治情勢と絡めても読めそうな一冊だ。(三根明日香著/かや書房・1890円)
評・コダマシンゴ(元旅行雑誌編集長、フリーライター)
●=田へんに俊のつくり