介護保険の入所施設の一つ「老人保健施設(老健)」。本来は、退院後の高齢者が自宅へ帰れるようリハビリなどを行う中間施設。だが、入所期間が長く、特別養護老人ホーム(特養)との違いがあいまいなところも。認知症ケアに特化し、位置付けを明確にしようとする試みを紹介する。(佐藤好美)
2月初旬、神奈川県三浦市にある老人保健施設「なのはな苑」では、多くの人が食事を終え、くつろいでいた。とはいえ、入所者の生活リズムは一律でない。職員の見守る中、これから昼食を取ろうとする男性もいれば、廊下を早足で行き来し、すれ違うスタッフの手を握り締める若年認知症の女性も。ハンドバッグを片手に、にこやかに「トイレはどちらかしら」と問う女性もいる。
入所者は全員が認知症で、半数以上が「日常生活自立度IV」以上と重い。「IV」は「日常生活に支障をきたす症状・行動、意思疎通の困難さが頻繁(ひんぱん)に見られ、常に介護が必要」とされる状態だ。だが、入所者は落ち着いた表情をしている。