■虐待受けた子供たちの「その後」に迫る
はじまりは、自分の無知に気づいたことでした。これまで子供や家族をテーマにノンフィクションを書いてきた身にとって、児童虐待はある意味、守備範囲であり、「わかっている」と思っていました。しかし、私が見ていたのは悲惨な虐待死事件であり、保護された子供たちは「もう殺されることはない」のだから、それで解決したと思い込んでいたのです。
ところがそうではなかった。子供たちは、虐待の重い後遺症に苦しんでいました。
いつ母に殴られるかわからない恐怖の中、意識を飛ばして「壁になって」生きていた女の子。圧し掛かっている父の下で、心と身体を切り離し天井だけを見つめていた少女。虐待を受けた子供に「解離」が普通に見られ、脳の成長にさえ明確な影響が出るなど、それほどすさまじく残酷な傷を子供に残すなど思いもしないことでした。
これは虐待を受けた子供たちの、「その後」に出会う物語です。本書の主人公である4人の子供はみな、「ファミリーホーム」という里親を大きくしたような「お家」で暮らしていました。どの子も想像を絶する体験を経てきたわけですが、子供たちは信頼できる大人の愛情に包まれて、笑顔を取り戻していました。その笑顔こそ、一つの光であり、確かな希望だと確信しました。だからこそ、子供を包み込む大人たちの姿に、私は深い感銘を覚えました。
一方、傷が癒やされぬまま大人になった女性の苦しみの深さは想像を絶するものでした。それでも彼女は、身をさいなむ過去と現在の苦しみを正面から語ってくれました。彼女の勇気に報いたいと心から願いました。
虐待から生還した子供たちに、「生きていてよかった」と思える人生を送ってほしい。それは、私たち大人の責任なのだと改めて強く思います。(1680円 集英社)
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