「小説は格別の存在」
作家・クリエーターのいとうせいこうさん(52)が、自選作品集と位置づける「いとうせいこうレトロスペクティブ」シリーズ(河出書房新社)の刊行を始めた。世評とは裏腹な深い苦悩と長い沈黙、そして再起…。現実を予見するような鋭い感性が息づく初期作品からは、異才の二十数年間の歩みも浮かび上がる。(海老沢類)
「昔ボトルに入れて海に流した手紙への返事が、今になって浜辺に流れ着き始めている感じ」。最近の再評価の高まりを反映した復刊プロジェクトを、いとうさんも喜ぶ。初回配本は平成3年に出した2作目の長編『ワールズ・エンド・ガーデン』。幻想の都市、ムスリム・トーキョーを舞台に、突然現れた謎の浮浪者の予言に翻弄される人々を描く。第2巻の『解体屋外伝』(5年)は、洗脳のプロ「洗濯屋」と脱・洗脳を業とする「解体屋」の闘いをつづる娯楽長編。ともにカルトや洗脳といった重い題材をポップに仕立てる。