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サーカスと能が異色合体 新感覚の幽玄世界

 サーカスの技法でアートパフォーマンスを行う「現代サーカス」と伝統芸能の能がコラボした異色の公演「ハナゴロモ」が12月10日から3日間、高松市の玉藻公園(高松城跡)で行われる。演劇を座ってみるのではなく、観客が会場内を歩き、複数の場所を移動しながら物語を楽しむ回遊型の演劇。公演に臨む「瀬戸内サーカスファクトリー」代表理事、田中未知子さんは「サーカスを通じて、人間の体はもろいがすごいものだと伝えられる」という。そのうえで「東日本大震災や新型コロナウイルス禍を経験し、社会が今までになく生と死の境目に直面した今だからこそ、生きている喜び、感謝を感じてもらえるはず」と話している。

現代サーカスと能がコラボした異色の公演「ハナゴロモ」のメインビジュアル(主催者提供)
現代サーカスと能が融合する舞台公演の会場となる披雲閣(主催者提供)
「ハナゴロモ」に出演する吉田亜希さんの演技。瀬戸内サーカスファクトリーの公演「YonaYonaサーカスの一場面=令和2年10月、香川県三豊市(同団体提供)
瀬戸内サーカスファクトリー代表理事の田中未知子さん
能の「羽衣」のイメージ画像(梅若会提供)

 回遊型の公演

 「ハナゴロモ」は能楽の古典「羽衣」がモチーフ。玄関前や庭も含めた建物全体を舞台に見立て、30人程度のグループに分けた観客が移動しながら鑑賞する回遊型公演になる。

 一輪車やシルホイール、エアリアル(空中芸)などのサーカスの技をアートとして披露。最後に大書院で能が上演される。行きと帰りでオブジェの状態が変化するといった能楽の世界観を意識した仕掛けもあるという。

 能楽は「梅若会」当主で人間国宝、梅若実さん監修。シテは高松市出身の女流能楽師、伶以野(レイヤー)陽子さんが勤める。

 音楽は欧州の古楽器で奏でる「古楽」。フルートの前身の木管楽器、フラウト・トラヴェルソ奏者で「たかまつ国際古楽祭」芸術監督の柴田俊幸さん(高松市出身)と、弦楽器のオルボ奏者の小暮浩史さん。

 出演は俳優・ダンサーの江戸川じゅん兵さんのほか、空中芸の吉田亜希さん、バレエ出身の野瀬山瑞希さん、一輪車の岡部莉奈さんらが加わる。

 地方から文化発信

 瀬戸内サーカスファクトリーの代表理事、田中さんはもともと、新聞社でイベントなどの事業担当していたが退社して渡仏し、現代サーカスの専門家を志した。

 平成22年の第1回瀬戸内国際芸術祭で運営に携わった後に香川県に移住し、23年には瀬戸内サーカスファクトリーを設立。今は香川県三豊市の元学校体育館に練習拠点を置いている。

 1970年代にフランスで生まれたという現代サーカスは、綱渡りや空中ブランコなどのサーカスの技を軸に、ダンスや演劇の要素を加え、ストーリー性を持った舞台芸術だ。

 田中さんは「東京にはないユニークでレベルの高い文化を地方から海外に直接発信しようと考えていた。香川には農村歌舞伎や獅子舞など生活に根付いた民俗芸能があり、文化の源流や原点を実感して拠点に定めた」と話す。

 また、「生活の中に普通に文化がある日本を取り戻したい」とも。「建設、鉄工、教育など、直接は舞台芸術とつながらないような業種とも連携し、製品開発や職人の育成、子供教室など社会に広く求められるサーカスにしたい」と話す。

 新型コロナ禍を機に国内のアーティストが香川に移住する動きもある。「住みながら創作する土壌ができ始めている。香川では現代サーカスの認知度もアップしている。住民たちに自分たちの文化として愛着と誇りを持ってもらえたら」と話している。(和田基宏)

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 公演は12月10~12日、昼と夜の1日2回公演。1回100人。昼5千円、夜5800円(いずれも税込み)。イープラスなどで前売り券販売中。問い合わせはJTB高松支店(087・822・0033)。