お金で損する人・得する人

一律給付金を有効な政策にする「3つの条件」とは

高橋成壽

 自民党と公明党が給付金の支給について協議(2021年11月8日現在)を続けているようです。自民党はバラマキ批判を恐れて収入による制限を設けたい方針。公明党は政権公約でも有り18歳以下に条件をつけず給付し、3万円のマイナポイントも付与したい意向のようです。筆者からすると、さっさと支給すればいいのに、と思います。ただし条件をつけると良さそうです。

■給付金を課税対象とする

 前回の定額給付金では、日本の総世帯の99.4%が給付金を受給しました。受け取らなかった世帯はたった34万世帯です。定格給付金を巡っては、公務員は寄付するようにと発言する首長がいてニュースになるなど、何のためのお金なのかはっきりしないまま支払うことになったように思います。

 収入が減っている人に対しての支給を意図するならば、短期的に収入が減ることのない公務員まであまねく受け取っていることには違和感があります。内閣人事局のデータでは、令和3年度の国家公務員数は58.8万人、地方公務員は276万人です。人数を世帯数と読み替えても300万世帯の公務員世帯まで給付金を受け取っていることになります。給付率を上げるために上意下達の申請要請でもあったのでしょうか。理解に苦しみます。マスクや消毒液などの衛生用品用のお金だったのでしょうか。

 給付金をスピード感を持って国民に届けるには、制限を設けないことが大切です。従って、定額給付金を全国民に一律支給した事自体は間違いではありませんでした。しかし、給付金が有効に使われたかどうかは検証がされていません。

 マネーフォワードの研究員や大学関係者が発表した「特別定額給付金が家計消費に与える影響に関する研究論文」によると、給付金が支給された週から消費が増加。給付金のうち3割程度が消費として利用された。収入の低い家計と預貯金の少ない家計は、給付金を消費として利用する傾向が高い。食費、生活必需品などは支給後早い段階で利用されるということです。

 この調査からわかることは、収入の低い世帯への給付は必要で、それ以外の世帯への給付は短期的には必要がないということです。給付金は原資が税金ですから、消費に回らずに貯蓄されることは、政策の意図と異なると言わざるを得ません。

 とはいえ、収入制限を設けた場合には収入をいくらで線引するのか、線引の根拠は何か、という疑問を解消するのは困難です。もしくは、収入が減少した人を証明するにしても、給与明細を提出したりと煩雑ですし、複数の収入がある人は虚偽報告の懸念があります。

 そして、このような正解のない議論を何度も繰り返すよりも、さっさと支払えばいいというのが筆者の主張です。その代わりに、課税するのです。給付金という名称では課税対象とすることは難しいでしょう。従って、所得税の課税対象者である受給者は確定申告を必須とし、所得税法上何らかの形で課税できるような方法で給付すればいいのです。現実的には、一時所得か雑所得になるのでしょうけれど、ここは取りこぼしの無いよう給与所得か事業所得とすべきです。会社員、公務員なら給与所得扱い。フリーランス、自営業などは事業所得扱いにすればよいのです。

 ただし、10万円の給付により、税法や社会保険による扶養の対象から外れることの無いよう、課税とはするものの扶養からは外れないような配慮も必要です。

 低所得者は非課税に近い金額を受け取ります。高所得者は半分近くを後日納税します。面倒な人は受け取らないでしょう。受け取った人もゆとりのある人は課税対象ですから、累進課税に則り、後日所得税と住民税で回収できます。

 全額課税対象とする。この一文だけで、バラマキにも歯止めが掛かりそうです。

■給付金に有効期限を設ける

 給付金を課税対象にしても一定の割合で貯蓄に回るでしょう。それは仕方ないと諦めるしか有りません。しかし、原資は税金ですから国民に渡し切りでは困ります。そこで有効な手法は有効期限を設けることです。

 消費税が10%になるタイミングでプレミアム付き商品券事業が実施されたのでを購入した人もいるのではないでしょうか。家計の負担緩和や地域での消費下支えを目的とした事業です。その際は、1197万人が2209億円購入し、2200億円利用されました。99%の利用率です。国の事業費は1026億円となっています。

 同じ様に、給付金を商品券として支給すればいいのです。もしくは、有効期限付きのマイナポイントとしてもいいでしょう。10万円分の商品券か13万円分のマイナポイントの二者択一にすればマイナカードの普及にも一役買うでしょう。

 有効期限を設けることで、何かしらの消費に回ることは確実です。注意すべきは、お釣りを出さないようにすることでしょうか。500円の商品券を使って10円のお菓子を買って、お釣りを貯蓄に回す裏技が考えられます。細かいことですが、お釣りは発生させないようにすべきでしょう。

 10万円が全額消費に回れば、そのうち約1割は消費税として国庫に戻ります。9割は事業者の売上に寄与するわけですから、誰かの給料になるなり、法人税として回収することもできるでしょう。貯蓄に回ってしまい一種の信用創造効果を発生させないことが最も愚かな方法と言えます。(※1)

 課税対象にして、かつ有効期限を設ければ、所得税、住民税、消費税、法人税などへの波及効果が期待できます。賢い高所得者は受け取らないという選択をすればいいだけです。受け取って全額消費すると税額分のマイナスになるのですが、一般の人はそこまで気が付かないでしょうから、かなりの効果が見込めそうです。

■本人利用に限定する

 最後に、規制するのが難しいのですが、本人利用に限定する必要があります。酒、タバコ、ギャンブルなど家族のお金が特定の人の嗜好品として消費されることは制度上望ましくありません。商品券であれば記名制にして、本人しか使えないようにしたいところです。小学生になれば名前を書くことができますから、未就学児のお金を親に吸い取られないようにする方法を考える必要があります。利用時にマイナンバーカードなどで本人確認を徹底するくらいしか方策はないかもしれません。

 いかがでしょうか、定額給付金もいくつかの条件を設ければ生活を支え、消費を喚起し、経済を回す効果が期待できます。何も条件を設けずに支給すればいいという考えは、バラマキ以外の何者でも有りません。政府関係者が一人でも本記事を見てくれればいいのですが。

※1 10万円の商品券が配られた場合、それは全額消費されるものの、普段の消費を8、9万円減らすということが起きる、という地域振興券についての研究もあります。「Did Japan's shopping coupon program increase spending?」

高橋成壽(たかはし・なるひさ) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。

【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら