鉄道業界インサイド

万博輸送のメインルートは軌道に乗るのか 大阪メトロ中央線延伸計画

枝久保達也

 会期中は運行本数5割増

 国土交通省は8月27日、2025年に開催される日本国際博覧会「大阪・関西万博」に関するインフラ整備計画を決定したと発表した。鉄道関係で注目されるのは、会場アクセス路線として整備される大阪メトロ中央線のコスモスクエア~夢洲(ゆめしま)間の延伸計画だ。

 万博会場となる夢洲は、コンテナターミナルが置かれている大阪湾の埋立地である。隣接する咲洲とは夢咲トンネル、舞洲とは夢舞大橋で結ばれているが、鉄道は開通していない。そこで中央線を夢洲まで延伸して万博輸送のメインルートとする構想だ。開業は2024年度を予定している。

 コスモスクエア~夢洲間の延伸は、大阪市がインフラ部(トンネル躯体など)を整備し、そこに中央線の大阪港~コスモスクエア間を保有する第3セクター大阪港トランスポートシステム(OTS)が鉄道施設を整備する(さらにOTSの設備を使って大阪メトロが電車を運行する)。

 一般的に地下鉄は国や自治体が公共事業として整備した道路の地下を借りる形で運行しているが、OTSもこれと同様に大阪市が整備したインフラを借りて運行する。地下鉄の新線建設といえば7年~10年程度かかるものだが、夢洲延伸が万博に間に合うのは、夢洲トンネルの上下線2本の道路の間に鉄道の導入空間が準備されているためだ。

 大阪市が2019年2月に公表した事業再評価調書によると、インフラ部の総事業費が694億円で、うち夢咲トンネルの既投資額が444億円となる。一方、OTSは中期経営計画の中で、夢洲延伸の設備投資額を約230億円と記している。ただ、5月14日付毎日新聞(電子版)が「大阪万博のアクセス鉄道整備費、40億円増」と報じているように、実際にはもう少し高くなるとの見方もあるようだ。

 ではどれほどの利用者を見込んでいるのか。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が2020年12月に策定した基本計画では、想定来場者数は開催期間通じて2820万人で、そのうち41%を中央線、22%を主要駅から発着するシャトルバス、その他37%を自家用車や団体バス、タクシーが担うと試算している。

 中央線の1日当たりの平均利用者数は32.7万人(コロナ前の2018年度)だから、これに万博輸送の11.8万人が加わると、利用者は3割以上増えることになる。2月2日付朝日新聞(電子版)は、大阪メトロが会期中、中央線の運行本数を5割増やす方針だと伝えているが、協会は混雑緩和のため「大阪府内の企業へ時差出勤やテレワークの活用を呼びかけ、ピーク時間帯の交通負荷の軽減を図る」ともしている。

 揺らぐ夢洲のIR計画

 ちなみに1970年の大阪万博でも大阪メトロ御堂筋線の延伸区間である北大阪急行電鉄江坂~千里中央間の南北線と、千里中央から分岐して万国博中央口駅まで結ぶ臨時の東西線3.6キロが会場アクセス路線として整備されている。梅田、新大阪から会場まで直結する利便性から、多くの人が北大阪急行経由で万博を訪れた。

 北大阪急行の建設費は南北線と東西線あわせて約115億円(一部は万博協会が負担)。北大阪急行によると会期中の利用者は4150万人。これは1970年度の定期外旅客の9割以上を占める計算だ。会期中の運輸収入については記録がないが、同年度の定期外収入は約29億円で、同様に9割が万博によるものとみなした場合、収入は26億円となる。

 一部のサイトには「万博の旅客輸送だけで建設費が返済できた」との記述もあるが、さすがにそこまではいかなくても建設費の5分の1以上を半年間で売り上げたことになる(そもそも建設費は原価償却によって費用化されるのであって、いくら売上が多くても税金として持っていかれるだけだ)。

 同様の計算を中央線夢洲延伸で試みると、想定来場者数2820万人の41%、つまり1156万人が梅田から夢洲まで14.8キロ(280円区間)を往復利用したとすると、約64億円の収入になる。前述のように大阪市の負担を除いたOTSの設備投資額は約230億円だから、4分の1になる計算だ。

 これを多いと見るか、少ないと見るかは難しいところだが、1970年の万博終了後はニュータウン輸送という新たな役割が与えられた北大阪急行に比べ、IR(カジノを含む統合型リゾート)誘致が新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって全面開業時期が白紙に戻るなど跡地の開発計画が固まっていない中央線が苦労するであろうことは間違いない。

枝久保達也(えだくぼ・たつや) 鉄道ライター
都市交通史研究家
1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。著書に「戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団」(青弓社)。

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