7月・8月と豪雨に伴う災害が増えています。九州や中国地方では毎年のように水害が発生しています。これまで、「火災保険の保険金詐欺」、「火災保険の点検」、「迅速な保険金請求」、「罹災証明書と支援金」ついて解説してきました。今回は、誰もが使える生活支援の制度として税制優遇についてお伝えいたします。
■所得税法の雑損控除
被災して住宅や家財が被害にあった場合には、確定申告で「所得税法」に定めのある雑損控除、または「災害減免法」に定めのある税金の軽減・免除のどちらか有利な方法を選択することができます。
雑損控除の対象となる資産は、「生活に必要な資産」となっています。生活に必要な資産か否かを区分する要素はいくつかありますが、事業用の資産、別荘、1つ30万円を超える貴金属・書画・骨董となっています。高級なアクセサリーや腕時計などは対象外ということです。
雑損控除の控除額の計算方法は2つあり、多い方の金額を適用することができます。
(1)雑損控除額=損失額-所得金額の1/10
(2)雑損控除額=損失額のうち災害関連支出額-5万円
災害関連支出とは、被災した家屋や家財を取壊したり、原状回復した場合のやむを得ない費用のこと。支出が何でも適用になるわけではありませんので、復旧時に税務署に確認したほうがいいでしょう。また適用に当たり領収証の添付が必要になりますので、書類を保管しておきましょう。
災害関連支出は災害の止んだ日から1年以内の支出となり、事情により3年以内の支出まで認められる場合があります。
雑損控除がその年の所得額から控除しきれない場合は、翌年以降3年間繰り越して所得から控除することができます。つまり、合計4年分の所得と相殺することができるわけです。ただし、繰越適用させる場合は、適用の都度確定申告を行う必要があります。
■雑損控除の被害額の計算
建物の現在価値については、税法上の耐用年数の1.5倍を損害額算定用の耐用年数として考えます。鉄筋コンクリート造りは耐用年数70年。木造は33年、鉄骨は鉄骨の厚さにより、28年、40年、51年となります。
自動車の現在価値については普通乗用車の耐用年数が9年、軽自動車は6年となります。
建物の被害割合は、損壊区分では全壊100%、半壊50%、一部損5%となります。浸水区分では、床上浸水の程度により、被害割合が変わりますが、平屋の場合で25~65%、2階建て以上の場合で20%~55%となります。床下浸水は15%となっています。
価格が不明な場合は、都道府県ごとに構造別の工事費用が定められています。また、家財の評価額についても、世帯主年齢と家族構成により家財の目安額が定められています。
■災害減免法の所得税の軽減・免除
災害減免法による税金の軽減・免除の対象となる資産は、住宅または家財の損失額が被害を受けた財産の1/2以上であることが条件となります。従って、全壊、大規模半壊などかなり大規模な被害を受けた場合に限られます。
所得税の軽減額は、所得の多寡により異なります。
(1)その年の所得額:500万円以下 所得税全額免除
(2)その年の所得額:500万円超750万円以下 所得税1/2軽減
(3)その年の所得額:750万円超1000万円以下 所得税1/4軽減
所得が1000万円を超えると制度の対象から外れますので注意が必要です。
■住宅ローン控除の特例
住宅ローン控除の対象となる住宅に住めなくなった場合でも、引き続き住宅ローン控除の適用が可能です。ただし、住宅を取得し直した場合などは、旧住宅は住宅ローン控除の適用から外れることがあります。
ただし、住宅ローン控除の重複適用ができる場合もあります。被災してから一定期間内に住宅を取得した場合には、旧宅の住宅ローン控除と新宅の住宅ローン控除をそれぞれ適用させることができるとされています。
しかし、住宅ローンの2重払いは家計への負担が大きくなりますので、実際に利用できるかどうか家計次第といえます。重複適用の場合の添付書面が罹災証明書です。
■災害義援金は非課税
被災者生活再建支援法による、生活再建支援金は非課税となりますので、確定申告などは必要ありません。また、義援金や見舞金、社会通念上相当と認められるものに関しても非課税となります。
他にも共助の保険については、治療のための給付金、火災保険金なども非課税となります。困ったときにもらえるお金は非課税と考えておくといいでしょう。
■個人事業者の損失繰越
個人事業者で事業用資産や棚卸資産が被害を受けた場合、損失を事業所得の必要経費に計上することが可能です。
また、損失がある場合は、青色申告であれば、前年の税金を繰り戻し還付、あるいはその年の翌年以降3年間に所得から控除することができます。白色申告の場合は、翌年以降3年間繰り越して所得から控除することができます。
■その他
被災したため確定申告や所得税の納税が難しい場合は、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を、お住まいを管轄する税務署へ提出することで、所得税の申告と納税について期限の延長が認められる場合があります。
また、所得税の申告は済んでいるものの税金の納付ができない場合は、「納税の猶予申請書」を税務署に提出すると、納税の猶予が認められる場合があります。
税金の解説のため、少し難解ですが、税務署に相談して活用できるか確認するといいでしょう。
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